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鳩時計④
ダメだ。
言う訳にはいかない。
あの人が俺のせいでしたくもない
結婚をするなんて・・。
せっかく楽しそうなのに。
あの日。沢木さんが前のように迎えに来て。
伊織さんがシャワーを浴びている間に
少し話をした。
「色々 伊織がまた迷惑かけたみたいだけど
なんとかうまく落ち着いたのかな。」
そう言われて頷く。
「あの・・。」
言いかけて止めた。
拓真の事は話さない方がいい。
自分の部下と俺との間がこの事で
ぎくしゃくしたなんて知ったら それこそ
拓真に何かしら影響がある事も考えられるし。
口籠る俺を見て 沢木さんは口を開く。
「柚くん。ありがとう。
わかったと思うけど アイツには信用出来る人間
ってのが今までほとんどいなくてね。
損得抜きの好意なんて理解出来る奴じゃないんだ。
それでも今回の一件でアイツはアイツなりに
ずっと考えていてさ。」
そう言って。
「君を傷つけたのかって後悔してた。
そんな風に他人を思いやるような奴じゃ
絶対になかったから吃驚してね。俺も笹目さんも。」
ポンと俺の肩に手が乗る。
「毎日楽しそうなんだよ。
ビジネスはビジネスとして この出会いが
伊織を変えていっているのは事実だから。
礼を言うよ。本当にありがとね。」
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