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鳩時計⑤

ずっと伊織さんと一緒に居る沢木さんに そう言われて すごく嬉しかった。 少しでも俺が伊織さんの変わるきっかけに なってるんだと思ったら この関係にも意味があるのかなって思えて。 ビジネスであっても。 それだけじゃないって思えるようになったから・・。 だからこそ。 俺のせいでその目的まで失うような そんな事には絶対にさせられない。 だけど じゃあどうしたら・・。 洲崎グループは 俺みたいなリーマンの世界を 知らない奴でも知っているぐらいの巨大な組織。 太刀打ち出来る事なんて何もない。 諦めるしか無いのかな・・。 じいちゃんが守ってきたこの店を ずっと続ける事だけが俺の・・。 居場所を失いたくなかったら。。 あの男性はそう言った。 居場所が無くなる。 大事な思い出も全て消え去って 鳩時計が動く必要も無くなるけど・・。 脳内に沢山の思い出がフラッシュバックの様に 次々と浮かんでくる。 じわっと涙が滲むのを感じ急いで 手の甲で拭った。 でも。 だからって伊織さんが不幸になるのはもっと嫌だ。 黙っていよう。 うん。 柚は肩を落とし ぎゅっと拳を握りこんだ。

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