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鳩時計⑥

「何かあったのか?今日は随分と元気が無いが。」 いつものようにブレンドを頼み ボックス席に座った伊織さんは 俺の顔を見るなり訝しげにそう言った。 ああ。ダメだ。 表情に出ちゃってるんだ。 「結構今日忙しくて。疲れちゃって。 すいません。今 用意します。」 急いでカウンターに戻り ブレンドを淹れる。 ちゃんとしなくちゃ。 伊織さんは鋭い人だから気づかれる。 温めたカップにコーヒーを注ぎ 伊織さんに持っていく。 「お待たせしました。ブレンドです。」 伊織さんは一口飲み 少し頬をぴくっと動かすと ちろっと俺へと視線を移した。 あれ。 なんかおかしかったかな。 別に誰からも指摘されなかったから 大丈夫だと思っていたんだけど。 何があっても仕事はちゃんとしなきゃ。 そう思っていつも以上に気を遣ったつもりで・・。 でも伊織さんは何も言わない。 「すいません。」 声がかかり はい。と返事をして違うお客さんへと 向かう柚の背中を 伊織は黙って じっと見つめた。

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