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鳩時計⑨

「つまり柚くんには何か心配事がある。 そういう事だね?」 ああ。と伊織は頷いた。 「洲崎が何か仕組んでいるのかもしれない。 ここの所呼び出しが無いのも おかしいとは思っていたが。 俺では埒が明かないと何かしら柚に仕掛けている 可能性が高い。そうは思わないか。」 ああ。成程。 「有り得ない話じゃないね。 でも。そうなるとなかなか難しいな・・。」 相手は洲崎グループ。 伊織が言うようにそんなに簡単に 尻尾は掴ませないだろう。 ふっと碓井の顔が浮かんだ。 暫く心あらずで仕事に身が入っていなかったが やっと通常運転に戻っている。 柚くんとの間に何かしらあったのかもしれないと 踏んではいたのだが。 俺たちのビジネスのせいで大事な友人関係が 壊れたのであればそれは意図する事ではない。 まあ。もちろんそれを決めるのは 当人同士だからとはいえね。 経緯を話し 碓井にやらせてみるかな。 「わかった。こっちで少し調べてみるよ。 ああ。そうだ。例の壊れた鳩時計。 業者が見つかったよ。ドイツの直営店で 部品を取り寄せてくれるらしい。 来週には届くと言っていたから。」 そう伝えると伊織はパッと表情を明るくする。 本人は未だわかっていないみたいだけど。 もう。お前。 柚くんの事。絶対好きだよね。 多分初恋ってヤツなんじゃない。 こうなったらさ。 成就させてやりたいな。 この出会いを逃したらきっと伊織は 誰も愛さないで一生を終える気がする。 それはちょっと可哀そうでしょ。 沢木はふっと笑い 社長室を出て行った。

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