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鳩時計⑫

「うん。そうだね。最初のスタートは。 その鳩時計を直してくれるって条件で このビジネスを受けたんだけど。」 そう。 最初はそうだった。 でも今は・・・。 「でも。今はそうじゃない。 俺は伊織さんがちゃんと自分の信じる道を 歩いて行ける様にこの縁談を無かった事にしたい。 拓真が言うように伊織さんって横暴で。 最初ホントにこの人最悪って思ったよ。 なんなんだって・・。でも。 酒飲んだり飯食ったり。仕事の事で アドバイスして貰ったりして それだけじゃないって気持ちが強くなった。」 あの人は誤解されやすいだけで そんな人じゃない。 話せばわかってくれるしわからなくても わかろうとする努力を怠らない。 俺みたいな。 この店を守る事も出来ないような奴の 言う事を真剣に受け止めてくれて。 あんなデカい企業の社長なのに。 洲崎グループの跡取りなのに。 ちっぽけな喫茶店のマスターの話を 真剣に受け止めて聞いてくれた。 理解しようとしてくれている。 もう。 それだけで充分だな。ホント・・。 例え失っても。 ビジネスが終わって 伊織さんとの関係が 終わっても。 俺は後悔しない。 絶対に・・・。 それ以上のものをあの人から貰った。

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