96 / 121

鳩時計⑭

拓真は立ち上がり頷く。 「お前が面倒ごとに巻き込まれるのも 散々見てきたし。だがそれでもお前が お前でしかないのもわかっていた。 お前は今 お前自身で洲崎社長と向き合い そういう結論になったんだな。」 真剣な視線を向けられ 頷き返す。 そうだ。 俺は伊織さんが好き。 だからあの人が望まない結婚なんて しなくてすむように。 今の俺はそれだけを目標に。 前に進むしかない。 明日。 じいちゃんに謝りに行こう。 この店は取り壊され 立ち退きを余儀なくされる。 じいちゃんが大事にしていた店が無くなる。 大事な思い出も全て消えて無くなる。 でも俺はその遺志を継ぎ 絶対に諦めずにやっていくから。 そう伝えに。 きっとわかってくれる。 悲しませるかもしれないけれど。 大事な人の一生を。 誤ったものにはしたくない。 今の俺に出来るのはただそれだけ・・。 「俺は伊織さんに幸せになって貰いたい。 ただ。それだけなんだ。」 そう言う口元に笑みが浮かぶ。 そうだ。 俺はそう思っているだけ。。 拓真はじっと俺を見つめ そうか。と呟いた。 「なら。俺は俺の出来る事をする。」 そう言って店を出て行く。 出来る事・・。 なんだろう。 柚は首を 拓真が捻り 出て行ったドアを ずっと見つめていた。

ともだちにシェアしよう!