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鳩時計⑯

内心の不安を読まれたのか 伊織さんは ふっと笑い 大きな手を俺の頭に乗せる。 「ここは宿泊と食事が別になっている。 あそこに見える離れが食事処になっていて 新鮮な魚介類を使った料理が絶品だから 食べさせてやりたいと思ったんだが 無理はしなくていい。」 そう言ってくれた。 ああ。そうなんだ・・。 「あ・・。じゃあ。是非。」 腹を括りそう返すと そうか。と伊織さんは微笑み 俺の手を引いて旅館の中へと入って行った。 品のある落ち着いた内装。 高級感がある調度品に 漂う空気が全く違う。 そうだよな。 伊織さんてこういう場所に居るべき人で。 いつも俺に合わせて屋台や居酒屋で 飯食ったり酒飲んだりしてくれてるけど 本当はこういう場こそが相応しい。 支配人らしき人が出てきて深々と頭を下げると どうぞ。と案内してくれる。 当たり前のように顔パスなのを見ただけで ああ。そうだったって改めて再認識した。 やっぱり。 俺とは全然世界が違う。 勘違いしちゃいけない。 今はビジネス上付き合ってくれているけど これが終わればまた全く接点の無い 俺とは真逆の人生を送る人なんだから。 そう。 勘違いしちゃいけない・・・。

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