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鳩時計⑰

期日までに返事をしなかった。 案の定すぐに何やら公的な書類みたいなのが 送られてきて 立ち退きの期限は一ヵ月。 それを守らなければ 訴えられると その書類には書いてあった。 客商売で訴えられたりしたら 余計に 立ち行かなくなる事も多分計算されてるんだろうな。 勿論同意もしていないから 立ち退き料などは貰わない。 ・・でも。良かった。 還暦祝いまではギリギリ店をやっていられる。 それを無事終えればこのビジネスも終わる。 店が閉店する頃には関係も元に戻っているだろうし 閉店もアナウンス無しでするつもりだった。 これでいいんだ・・。 そう思いながらも 胸がズキンと痛む。 じいちゃんに経緯を話して 店が奪われる話をすると じいちゃんは そうか。と小さく呟いて。 「まあな。今のご時世あの辺りは 開発も進んでいるからしょうがないだろう。 そういう事もあるだろうなとは思ってたよ。」 それでもやっぱりガッカリしたように 肩を落として項垂れた。 申し訳なくて 胸が張り裂けそうで。 でも。じいちゃんは顔を上げると じろっと俺を睨みつけ 「柚。何を勘違いしているのかわからんが あの店はもうお前の店なんだぞ。 やるも潰すもお前次第だ。 俺にすまないとか思っているなら それは全くのお門違い。その先どうやって お前が生きていくのかを考えるのがまず先だ。 そうじゃないのか。」 ピシッとキツイ声音で怒られた。

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