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鳩時計⑳

良かった。 あれから伊織さんにバレないようにと 必要以上に緊張していて。 でも 大丈夫そう。 ホッとして 刺身に手を伸ばす。 仕事がしてある鯵を口に入れると 歯触りが良く 生臭さが全くない。 「すごいな・・。」 旨いのは当たり前。それよりもすごい。 やっぱりちゃんと修行されている料理人さんは 刺身一つ 手を抜かない。 俺はブツとかで充分だけど こんなのいつも 食ってる人が よく俺の行きつけなんかで 喜んで食ってくれてたなぁ。。 無理させてたんじゃないのかな。 嘘をつかない人だけど でも・・。 何だか急に恥ずかしくなる。 紹介した店が恥ずかしいんじゃなくて 知らない事を教えたみたいな。得意げに いい気になってた自分が恥ずかしい・・。 「どうかしたか。」 心配そうに顔を覗き込む伊織さんと目が合った。 違う。 これは劣等感だ。 店に来た 洲崎の人達の見下す目。 本当の伊織さんの住む世界に対しての劣等感。 バカだな。 最初からわかっていた筈なのに。 好きになってしまって 認めてしまったから余計。 自分があまりに違いすぎて・・。

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