109 / 121

鳩時計㉗

沢木さんに促され 中に入る。 靴を脱ぎ 廊下を歩くと広い中庭。 座敷が並び その内の一つの戸を 沢木さんはガラッと開けた。 長いテーブルの両側に人が並ぶ。 店に来た女性と男性も。 ジロッと睨まれ ビクッと怖気づいた。 上座に一人白髪の男性。 ああ。あの人が伊織さんのお父さんか・・。 威厳があるってこういう人を言うんだろうな。 全くこちらには目も向けない。 ふと視線を感じて顔を向けると お父さんの反対側の 席に座る伊織さんがこちらを見ている。 その瞳が優しくてホッとした。 良かった。 伊織さんもこの間の事は一旦置いてくれている。 俺も役目を果たさないと。 手まぬかれ 近づくとグイッと手を引かれる。 ストンと隣に座らされた。 沢木さんも俺の後ろにすっと座る。 全員の悪意が向けられた。 言われてないのに心の声が聞こえてくるようで。 コイツが誑かしたのか。 どこの馬の骨かわからないような奴。 どうせ金目当てだろう。 ましてや男なんて・・・。 ぎゅっと拳を握ると 伊織さんの大きな手が 俺の手を覆い 思わず見上げる。 「大丈夫だ。」 伊織さんはそう言って 正面へと視線を向けると 口を開いた。

ともだちにシェアしよう!