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鳩時計㉞

「え。あれ。。あのお兄ちゃん。 もしかして・・伊織さんだったんですか。」 ビックリして腕を掴むと 伊織さんは やれやれと肩を竦めた。 「君はあの頃もよくそうやって人の腕を掴み シャツを引っ張るから閉口した。 大人になっても進歩の無い奴だ。」 そう言ってニヤッと笑う。 ああ。だから鳩時計が壊れた事にも気づいたんだ。 俺がどれくらい好きだったのかも 知っていたから ああやって提案して・・。 お母さんだったのかな。 あのお兄ちゃんとは数回会っただけで それ以降 一度も来なかったから それきり お母さんと離されてしまったのかもしれない。 全然気づかなかった。 何もわかってなかったのは俺だった。 最初から俺の為に・・。 「伊織さん。。沢木さん。あの・・。 ありがとうございます。」 鼻がツンとして涙が溢れ出す。 伊織さんはポンポンと俺の頭を叩き 「そんな涙目で久しぶりに鳩が鳴くのを 見逃す気か。」 ハンカチを出して 目元を拭いてくれた。 「み・・見逃しませんよ。大丈夫ですっ。」 無理矢理顔を上げ 涙で滲む目を鳩時計に向ける。 伊織さんが俺の肩を抱き 引き寄せた時 ポーンと音がして扉が開く。 久しぶりに見る鳩が 上下に動きながら ホウホウと可愛らしく鳴いた。

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