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第13話
「また、呼んじゃった。迷惑じゃないかな」
男の人ははにかむように笑う。
「迷惑なんかじゃないです。あの、こんな雪の日に車で来たんですか?」
「うん、君に会いたくて、野々の顔が見たくて。あれから忘れられなかったんだ、ずっと」
男の人は手を前で組む。細くてしなやかな指。でも女っぽいわけではない。
「名前、教えてくださいよ。偽名でもいいんで」
名無しでは呼びづらい。
「俺は晴臣だ」
「はるおみ」
俺は座っている晴臣に両手を回して抱きつく。スーツを皺にさせたらいけないので直ぐに離れた。
フロントを通るときに確認したのだが、この部屋は露天風呂がある。デリヘル嬢の分際で露天風呂なんかに浸かって癒されてはいけないと思うのだが、雪の落ちる外の湯に浸かってみたい。晴臣は俺の考えていることが分かったのか「一緒に風呂に入ろうか」と言った。
「ああ、いいよ、どっちの風呂に入る?」
ここには部屋風呂もある。ガラス張りで中が見えるがそれも結構な広さがあった。
「露天風呂にしよう。野々はビールでも飲みながら入るといい」
「えっ!?飲んでいいの?」
「飲めるんなら飲んでいいよ。露天風呂で雪を見ながら飲むお酒は美味しいんだ。温泉みたいだろう」
ビールを飲んでいいというお客さんはいるが露天風呂で飲んでいいと言われたのは初めてだ。それもこんな雪の日に……。
俺は来ていたセーターを脱ぐとデニムを脱ぎ捨てた。そして冷蔵庫に行き備え付けのビールの缶を開けた。
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