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第5話 現れる本性
・・・ん?あれ?
なかなか近付いて来ない榛を疑問に思って、片目をうっすら開く。
「・・・ぷっ、くくっ、はは、あはははは」
え?何?
「ははは・・・、あーウケる。あき、本気にしちゃった?」
「榛・・・どーゆー事・・・」
ドンッ
俺の頬を掠めて壁に両手をつく榛。
え?え?
さっきまで子犬みたいな目をしていたはずなのに、今、その目は酷く冷たい。
「高校に入って、驚いたよ。ミニバスの時、俺の事、散々チビだなんだって虐めてくれたあきがいんだもん」
「・・・え・・・」
「しかもさぁ、身長の伸び代もなくて、今じゃ俺よりだいぶ、ちっせえし」
「は・・・?」
「俺さー、子供なりにコンプレックスだったんだよ、チビなのが」
何?どーゆーこと?俺が、榛を虐めてたって・・・あ・・・
小学生の頃、榛は女子よりも小さくて、可愛らしい顔をしていた。
そう言えば、俺、榛のことチビおんなって呼んでた・・・榛は泣き虫で・・・って、あれ、俺が泣かしてたんだ・・・
「思い出した?ほんと、あいかわらず無神経だよね、あき」
「あれ、は、ガキの遊びってゆーか・・・」
「ガキの遊びで傷つくヤツだっているんだよ!」
「まあ、いいや、今度は俺が、あきで遊んでやるよ。からかうだけのつもりだったけど、キス待ってるあき、結構かわいかったしな」
え?俺で遊ぶって・・・え、ちょっと待って・・・
「んんーっ、ぷはっ、ちょっと・・・うう」
榛のキスを振り切ろうとするけれど、大きな手に掴まれ引き戻される。
「!」
頬を強く掴まれて無理やり開けさせられた口の中に、榛の舌がぬるっと入ってくる。
「ふあっ、やら・・・」
くちゅくちゅと音をたてて、口の中をまさぐられる感触に立っていられなくなる。
ずるっと、体が壁を滑り落ちそうになる俺の手首を榛が掴む。
「これくらいでヘバんなよ、センパイ。はは、やらしー顔」
「はる、てめえ・・・」
「そんな口たたいていいと思ってんの?そんなちっこい体で抵抗するなんて考えない方がいいよ、あき」
パッと掴んでいた手を離され、床にぺたんと体を落とされる。
「今日はこれで許してあげる。相談、のってくれてありがとね、センパイ」
ガチャン
部室にひとり取り残される俺。
な、何だよあれ!
いい男になった♡とかときめいてる場合じゃねえよ、トゥンク♡してる場合じゃねえよ!
あれ、目があったらソッコー逃げなきゃなんない人種だよ!
あいつは危険な存在、なんかじゃない。超危険生物だ!
俺の平凡な高校生活が、轟音と共に崩れ落ちる予感しかしなかった。
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