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第12話 個室レッスン 1

非常階段の一件以来、榛がおとなしい。 校舎で会っても軽い挨拶だけ。ストレッチ中もほぼ無言だし、変なこともしてこない。 なんなんだよ。あいつの押したり引いたりの奇行は!情緒不安定か! そんな榛の態度に、いちいち振り回されてる俺も情緒不安定だな・・・ トイレで用を足しながら、ぼーっと榛の事を考える。 ん?なんか、隣からめっちゃ視線感じるんですけど・・・ 「榛!なんでここにいるんだよ!2年の階だぞ、ここ!」 「何階のトイレ使おーが俺の自由です」 「う、そりゃそーだけど」 だからってトイレすんのに、わざわざ2階に上がってこなくても・・・ 「先輩、思ってたより、ちんこ、ふつーなんすね」 「どーゆーのを想像してたんだよ」 「んー、もっと、ちっさいかと」 「失礼だな!てかまじまじ見んなよ!」 手を洗ってトイレを出ようとした俺の後ろ襟を榛が引っ張る。 「なにすんだよ、離せ」 「嫌です」 「ちょ、おい、引っ張んな!」 そのまま後ろ向きに引っ張られて、個室のトイレに連れ込まれてしまう。 「おい!なんなんだよ、ほんと・・・」 「しー、誰か来た」 「なんで隠れなきゃなんないんだって」 「男子トイレの個室から、男二人で出てったら、あらぬ噂がたつんじゃない?」 確かに・・・1階に教室がある1年と、2階のトイレの個室に二人で入ってるとか・・・ どう考えてもおかしい。 とりあえず小声で話す。 「おまえ、何企んでんだよ?」 「さあ?俺、狂ってるらしーから、このままあきに、何しちゃうかわかんないな~」 嫌な予感がする。イヤ、嫌な予感しかしない! 「ちょ、話し合おう!榛、っ」 俺の言葉を遮るように、榛が唇を重ねてくる。 「しー。静かにしないと、個室にあきが入ってるって同級生にバレちゃうよ」 個室に入ってるのがバレても別にいーんだよ!ただ、男二人で入っているのがバレるのはまずい。 ここは榛に従っておとなしくするしかないか・・・ 「あき、俺の上に座って」 「え!?」 便座の蓋の上に座った榛が、自分の太ももをポンと叩く。 「嫌だ。なんでそんなとこ座んなきゃダメなんだよ」 「座らないと、声、おっきくなっちゃうかもな俺」 「・・・わかったよ!座ればいーんだろ!」 俺は榛に背を向けて膝の上に座る。 「違う。前向きでまたがって」 は、はあ?無理だろ・・・ 「まだ、外、誰かいるみたいだな。俺、でかい声出ちゃいそーだな~」 「わかったって!」 ああ~、もう、早く休み時間終わんねーかな・・・ 早く、誰もいなくなって欲しいのに・・・

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