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第22話 正式彼氏 1
「はい、コレ。あげる」
部活帰りに榛から受け取ったもの。
鍵・・・?
「それ、俺ん家の鍵。朝、開けとくのめんどくせーし、勝手に入ってきて。7時には来いよ」
「え!?7時!?早いだろ!今朝だってまだ寝てただろ!」
「起きてた。あきが来んの、待ってた」
・・・なんだそれ。そんな拗ねた顔したって・・・
「わかったよ。7時な。ちゃんと着替えてろよな」
成長してイケメンになった榛だけど、こうやって拗ねた顔は小学校の時と変わらない。・・・なんか可愛いな。
ミニバス時代、俺は榛を虐めていた。主にチビおんなとか、チビとか、チビとか言って、泣かせていた。榛だけが特別小さかったわけじゃないのに、なんで俺、榛だけを虐めてたんだろ・・・。
「榛・・・あの・・・。ごめん。ミニバスの時、酷いこと言って、泣かせて」
今更だけど、ちゃんと謝りたかった。
「俺、今ならあきの気持ちわかるよ」
「え・・・?」
「なんでもない。帰りましょう、センパイ!」
「あ、うん」
俺の、気持ち?
「じゃあな」
「あ、あき!」
アパートの前で別れて帰ろうとする俺を榛が呼び止める。
「なに?」
「寄ってけよ」
「・・・なんで?」
今日は朝の一件以来、榛がおとなしかったから、平和に帰宅できると思ってたのに・・・。
「・・・いつも、メシ食うのひとりだし。たまには付き合えよ。これ、命令だから」
・・・そっか・・・。一人暮らしだもんな。さみしいよな・・・。
「わかったよ」
部屋に入ると、榛は手を洗った後、慣れた様子でキッチンに立つ。
「榛、料理とかできんの?」
「まあ、簡単なもんなら。ずっと親父と二人だったし、親父、仕事忙しかったから」
「そうなんだ」
なんか、意外。苦労してきてんだな・・・。
「あき、生姜焼き好き?」
「好き」
「じゃあそれ作る。座って待ってて」
俺はリビングのラグの上に腰を下ろして部屋を見渡す。
テレビとローテーブルとラグ以外何もない、生活感のないリビング。殺風景で、ひんやりとした空気。
「できたよ。食べよ」
榛が作った生姜焼き・・・。
「いただきます・・・。うんま!やべぇ!榛すげーじゃん!」
「マジ?よかった」
俺が一口食べたのを確認してから、榛も食べ始める。
「なあ、一人暮らし、さみしくねえ?」
何気なく榛に聞いてみる。
「・・・別に。家賃は親父が出してくれるし。女連れ込み放題だし」
・・・この部屋でヤってたのか・・・?それともベッドで・・・?
あの3年女子もこの部屋に入ったんだよな、きっと。
ズキン・・・
ん?なんだ今の。
「あき、今度泊まりに来てよ」
「え!?ととと泊まり!?」
「うん。俺、あきと一緒に観たいDVDあるんだ。鑑賞会しよーぜ」
なんだ。DVD鑑賞か・・・。
イヤ、今の「なんだ」は特に深い意味は無い!
・・・誰に言い訳してるんだ、俺。
「いいよ。じゃあ土曜日、部活終わった後にすっか」
「やった。楽しみ~」
ニッコニコになって榛が喜ぶ。
まあ、建前だけでも彼氏だしな俺。
夕飯を食べ終えて、後片付けをして、帰り支度をする。
「榛、メシ美味かった。ありがとな」
「待って」
玄関に向かおうとして、後ろ襟を榛にグイッと引っ張られる。
「苦しい!なんだよ?」
「お礼は?」
は?・・・おれい?
「今日のところは・・・そうだな・・・今朝の続き、かな」
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