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第25話 男×男 1
榛を迎えに行くようになって3日。
毎朝7時に迎えに行く意味なんかないくらい、榛の朝の準備は遅い。
いつもベッドの上で布団をかぶったまま。もちろん着替えなんかしていない。
初日以降、布団の中に引きずり込まれたりはしていないけど、榛を起こしてただただリビングで待っているだけなのも結構苦痛だ。
「はよ・・・」
今日は土曜日。部活しかないけど、榛に迎えに来いと言われて、約束していた泊まりのための荷物を持って榛の部屋に来ている。
「おはよ、じゃねーよ。早く準備しろよ!練習遅れたらペナルティで走らされんじゃん!」
「あきスタミナ無いんだから持久力つけるためには丁度いいペナルティじゃん」
いやだ!
「早くしねーなら置いていく」
「うるせーなぁ」
まだ眠そうな顔で榛は洗面所に入っていった。
「なあ、あき。男どうしって付き合ってなにやってんの?」
チームメイトで同クラの松田に聞かれて、俺はかなり焦ってしまう。
「え?え?イヤ、何も、特には。朝迎えに行って、一緒に帰るだけ!」
「そーなんだ。キスくらいしてんのかと思ってたわ」
「き!?す、するわけねぇだろ!男どうしだぞ!」
言えない。キスどころか、局部を擦り合わせて、ケツ掘られそうになったなんて・・・死んでも言えねぇ!
ふと視線を感じて横を向くと、壁にもたれながら榛がこっちに殺気を飛ばしている。
こ、こえぇ。何でだ?この距離なら話してる内容までは聞こえてないはず・・・。
思わず殺気立った榛から目を逸らす。
・・・キスか。そういえば、3年女子の前でされたのが最後だ。まあ、好き同士でもないから、性欲処理はしたとしても、キスはする必要ないもんな・・・。嫌がらせとしてじゃないと、俺はキスしてもらえないんだな・・・。
イヤ待て。してもらえない、ってなんだ。まるでして欲しいみてーじゃん!違う違う!
榛をチラッと見ると、まだこっちを睨んでいた。
なんなんだよ。俺、榛になんかした?朝は普通だったのに。
「あき、帰ろ」
「あー、うん」
練習を終えて着替えると、すかさず榛が声を掛けてくる。
「高杉~。おまえ、あきのどこがいいんだよ?イケメンのおまえが、あきみたいなド普通の、しかも男に惚れてるなんて、信じらんねーな」
松田が片手を俺の頭にぐしゃっと置きながら、榛をからかうように尋ねる。
ド普通で悪かったな。俺は平凡まっしぐらの男なんだよ。
「普通?松田先輩には、樫村先輩が普通に見えてるんですか?・・・こんなかわいくて、全身余す所なく食っちゃいたくなるような人なのに?」
榛の歪んだ笑顔に、俺も松田も恐怖を感じて固まってしまう。
「そ、そっか。まあ、仲良くやれよ、じゃあな!おつかれ!」
松田がそそくさと部室を出ていく。
ああ~!あいつ、爆弾投下して去って行きやがった!
「榛・・・。食うって・・・、冗談・・・だよな?」
「さあ?冗談に聞こえました?」
大事なのは聞こえたかどうかじゃねぇんだよ!
「そんなことより、冷蔵庫カラだし、なんか食ってから、コンビニ寄って飲み物とか買って帰りましょう」
部活中の殺気もない、ついさっきの歪んだ笑顔でもない、イケメンを全面に押し出したキラキラの笑顔の榛。
やっぱ、冗談・・・だよな?
「楽しみですね!早く帰ってDVD観たいです。行きましょう」
「うん」
榛、本当に楽しみにしてんだな。いつもひとりだから、誰かが泊まりに来たりすると嬉しいもんなのかな。
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