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第38話 初恋 -榛- 1
あきは乾いた下着と制服に着替え、「晩メシ美味かった、ありがとな」と言って、腰に手をあてながら帰って行った。
昨日も今日も、あきにめちゃくちゃな事をして甘やかして・・・。なのになんで落ちねーんだよ。
早く俺を好きだって言えよ。
俺は、あきと初めて出会った時の事を思い出していた。
小学3年生の俺は、同級生達の中でも一番のチビで顔が女みたいで、それが嫌だった。少しでも身長を伸ばして男らしくなりたくて、近所のミニバスチームに入った。
同じ日にチームに入ったのが、隣町の小学校に通うひとつ年上のあきだった。
その頃のあきは小学4年生にしては身長が高かった。160センチ近くあったと思う。俺は120センチ台で、あきとはかなりの身長差があって、隣で見上げたあきはすごくカッコよかった。
スっと伸びた背筋が綺麗だと、子供ながらにドキドキしたのを覚えている。
日が経つにつれて、長身のあきはぐんぐん上達していき、俺は相変わらず身長もあまり伸びないまま、いつまでもボールに遊ばれていた。
あきは優しくて、いつも、下手な俺の練習相手になってくれて、いつの間にか俺は男のあきに恋心を抱くようになっていた。
だけど、あきが6年生、俺が5年生になったある日から、あきの態度は一変した。
練習中に俺が足首を捻って、あきがおんぶして救護室に連れていってくれた時。
俺は大好きなあきに背負われた事がうれしくて、あきへの気持ちが大きくなりすぎて、思わず目の前にあるあきの白い項に、唇を寄せて舌を這わせていた。
俺の行動に驚いたあきは、救護室の長椅子に俺を落とすように下ろし
「気持ち悪い」
そう言い捨てて、走って救護室を出て行ってしまった。
俺は、そんな事をしてしまった自分に後悔したし、あきに言われた一言が頭を離れなかった。
翌練習日、俺に対するあきの態度は冷たいものへと変わっていた。
「チビ」「チビおんな」「近付くな」
そんな言葉があきから投げられるようになった。
まだ小学生なのにいやらしい事を、しかも男からされて、拒絶するあきの気持ちもわからなくはなかった。
だけど、大好きなあきから拒絶された俺は、酷く傷付いた。悲しかった。苦しかった。あきに冷たくされる度に涙が出た。
あきが中学生になり、ミニバスチームから抜けてからも、俺はあきの事が好きだった。
大好きだったあき。憧れていたあき。冷たくされても嫌いになることなんてできなかった。
もう一度会いたい。
そんな気持ちを引き摺りながら、中学生になると同時に親が離婚することになり、俺は父と生活することになった。母は、新しい男の元へと行ってしまった。
仕事が忙しい父の代わりに、家の事は俺がするようになっていた。
中1の夏になった頃から、それまで140センチ台で止まっていた身長が急に伸びだして、ようやく周りに身長が並ぶようになった。
中2になり、市のバスケ大会であきの姿を見かけた。
会わない間に俺は、あきの身長を追い越していた。
薄れていたあきへの想いがまた湧き上がって、すれ違った時、思わずあきの腕を掴んでいた。
「え?・・・なんですか?」
あきは俺の事を覚えていなかった。
「すみません。知り合いと間違えました」
俺は掴んだ腕を離して、去っていくあきの後ろ姿をずっと見ていた。
あんなに拒絶するほど俺の事を嫌がっていたのに、覚えてもいないなんて。
結局俺は、あきに好かれても嫌われてもいなかった。簡単に忘れられるような存在だったんだ。
俺が、ずっとあきに心を囚われている間に、あきは俺の事を忘れていったんだと思うと・・・
悔しくて、ムカついて、虚しかった。
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