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第39話 初恋 -榛- 2
それからの俺は、あきの事を忘れたくて、言い寄ってくる女を抱くようになった。一度抱いて捨てても、次から次へと新しい女が俺に近付いてきた。
コンプレックスだった自分の顔も、急激に伸びた身長も俺の武器になった。
だけど、何人抱いたとしてもあきの存在が俺から消えることは無くて・・・
むしろ、逆だった。
あきの白い項が、唇に触れたしっとりとした肌が、舌に残る汗の味が、他の誰とも違う。俺にとっては特別だと思い知らされるだけだった。
消えてくれないあきの感触が、だんだん疎ましく思えて、恋心はいつしか憎しみに似た感情へとすり変わっていった。
あきがいたから、俺は他の誰も好きになれない。抱くことはできても、女を、好きにはなれない。
俺がこんな風になったのは、あきのせい。
あきも、俺と同じ思いをすればいい。
あきと同じ高校に入学し、バスケ部に入った。
俺の事を忘れているあき。俺は自分から近付いて、距離を縮めた。
あきは、ミニバス時代に俺を泣かせていた事は思い出したらしい。その原因は忘れたままのようだった。
あきにまた出会ったのは偶然でも運命でもない。
俺が、仕組んだこと。
あきを俺に夢中にさせて、捨てる。
どうせ初恋なんて実らない。だったらいっそ、自分の手で潰してやる。
もう二度と、心を囚われないように、あきも俺自身も元に戻らないくらいにぶっ壊せばいい。
翌朝
「榛!起きろ!おまえいい加減にしろよ、明日からもう迎えに来ねーからな!」
俺の布団を剥ぎ取って、いつもの様に寝室を出ていこうとするあきを、背後から抱き捕まえる。
ふわっとシャンプーの甘い香りがして、あきのすっと伸びた項に引き寄せられるように口付けた。
あ・・・。唇にあたるこの肌の感触。ずっと俺の中にある、それと1ミリのズレもない。舌を這わせると、汗の味はしなかった。
ただ、舌が感じる肌の滑らかさに脳が痺れて、このままあきの体に溺れてしまいたくなる。
「あ!コラ、舐めてんじゃねぇ!」
色気の無い声で、現実に引き戻される。
もっと、痺れたままでいたかったのに。
「彼氏に何したっていいだろ。なんなら全身舐めまわしてあげよっか?」
「っ!朝から盛ってんじゃねぇ!変態!」
俺をドンっと突き飛ばして、寝室から出ていくあき。
そこは照れながら「ヘンタイ」って言いつつも抱きついてきてベッドへ・・・って流れだろーが。
・・・女なら簡単に落とせるのに。
あんなに俺に敷かれて喘いでたくせに、まだ男としてのプライドがあんのかよ。
もっと、俺に縋るように、俺を求めるようにしなきゃダメだな。
「ったく、毎朝起こして待たされる身にもなれよな!」
一足先に玄関で靴を履いたあきが、遅れてリビングから出てきた俺を睨みながら文句を言う。
俺は靴を履いて、あきをドアと自分の腕で囲んで見下ろす。
「な、なんだよ。俺は間違ったこと言ってねーからな」
「・・・そーだね。待ってるだけじゃつまんないよね。じゃあ・・・」
近付く俺を、胸の前で両手をクロスさせて警戒するあきの正面から、ガードが甘い太腿の隙間に手を差し込んで後ろの穴を服の上からグッと指で押し上げる。
「ぎゃっ!てめっ、なにす・・・」
「待ってる間、ここにオモチャでも埋めとこっか?」
耳元で囁くと、あきは耳朶まで真っ赤に染める。
・・・あきが落ちるのは時間の問題かな。
俺の手で、恋にも、地獄にも落としてあげるよ、あき。
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