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第40話 冬休みの憂鬱 1

今日から待望の冬休みだっつーのに・・・ 誰もいないダイニングのテーブルで、ひとり寂しくカップラーメンを啜る俺。 三日前に、田舎で一人暮らしをしている祖父がギックリ腰になったと電話があり、母と小学生の弟は、俺を置いてしばらく母の実家へ行くことになった。 父は県外に単身赴任中のため、家には俺一人。 昨日一昨日は、ひとりで自由だ~!とか思っていたけど・・・さすがにカップラーメンばっか飽きたな。洗濯物も溜まってるし。食器は使ってないけど、コップは洗わなきゃな~。 ・・・めんどくさい。 週4で部活入ってるし、とりあえず洗濯でもするか。 洗い終わった洗濯物をカゴに入れて、サンルームに運ぶ。 えーと、これはハンガーに掛けて、これはピンチでぶら下げとけばいいのか?・・・パンツは?ハンガー?それともこの傘の骨だけみたいなやつに掛けんの?・・・つーか、干し方がわかんねぇ! はあ、めんどくさ・・・。 俺って、榛と違って家の事なんもできねえな。 ・・・・・・・・・そうか!榛にやってもらおう! 彼氏なんだし、全部は無理でも手伝うくらいしてくれるだろ! 洗濯物を放置して、榛に電話をかける。 『あき?どうしたの?』 「あ、悪い、休みの日に。・・・あのさ、俺んち来ない?」 さすがに、家事を手伝え!ってストレートに言ったら、断られるかもしれないし。 『・・・いいの?』 「全然いいよ!むしろ大歓迎だし!今、親も弟もちょうどいねーから」 『・・・そーなんだ。じゃあ行く。マップ送っといて』 「マジ?やった~、じゃあ待ってるわ」 よしよし、上手くおびき出せた。 毎朝早くから迎えに行ってるんだから、少しくらい奉仕してもらってもバチは当たんねーだろ。 榛のアパートからウチまでは、歩いて10分ほど。 ギリギリまで寝ていたくて、家から一番近い高校を選んだけど、結局早起きしなきゃなんなくなって・・・しかも、平穏だった高校生活は今や跡形もない。 ピンポーン インターホンが鳴り、俺は玄関へ榛を迎えに出る。 「ごめんな、忙しかった?」 「別に。暇だったし、夕飯の買い物でも行こうと思ってたとこだった」 「そーなんだ。じゃあ後で一緒に行こーぜ」 よっしゃ、これはラッキーだ。夕飯もついでに作ってもらおう! 榛をリビングのソファに座らせて、俺は床に正座した。 「あ、のさ。お願いがあって・・・」 無言で腕を組み、榛が俺を見下ろす。 「一昨日から、かーちゃんたち、じいちゃんの家行っててさ」 榛はダイニングのテーブルにあるカップラーメンの容器に視線を向ける。 「俺、家の事とかした事無くて・・・・・・で、よかったら・・・手伝ってくんない?」 後輩にこんな事頼むのは、恥ずかしいし情けない。俯いて榛の返事を待つ。 「いいよ」 「マジで!?」 バッと顔を上げると、榛は片方だけ口角を上げた、あの歪んだ笑顔を俺に向けている。 ・・・あ、マズイかも・・・ 「そのかわり、キスして。あきから」 え、キス?もっとハードな要求されるのかと思った。 ホッとした気持ちと、なんだか少しだけガッカリ・・・って違うだろ!ここは素直に「たいしたことなくてよかった~」って思うとこだろ! ソファに座った榛の肩に両手を置き、少し屈んで唇を合わせる。 唇を離して榛の顔色を伺うと、少しムッとしているように見えた。 「何すればいいわけ?」 「あ、えーとじゃあ、まず洗濯物干すのと、あとシンクにたまったコップ洗うのと、あとゴミまとめて、それから風呂掃除と、買い物と夕飯・・・」 「あき」 「ん?」 笑顔の榛。・・・でも目が笑ってない。 「キスひとつでやってもらえると思ってんの?」 「・・・ですよね、すいません。全部終わったら何でもします・・・」 榛は、はあ、と溜息をついて腰を上げる。 まあ、最悪ケツにちんこ突っ込まれるだけだしな。 家の事、全部やってもらえると思えば安いもんだ! ・・・と、甘く考えていた俺は、後で死ぬほどの思いをする事になるなんて、想像すらしていなかった。

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