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第41話 冬休みの憂鬱 2

榛は、あっという間に洗濯物を干して、キッチン周りを片付けてゴミをまとめる。 その様子を感心しながら見ていると、手を止めた榛が急に近付いてきて、ずいっと顔を寄せてくる。 わ、キスされる! 俺は、ぎゅっと目を閉じ唇をきつく結んで身構えた。 バシッ 榛に頭を軽く叩かれて、体に入っていた力が抜けた。 「見てる暇あったら、風呂掃除くらい自分でしなよ。そんなんじゃあき、ネコ型ロボットに頼んないと生きていけなくなるよ」 「ハイ。スミマセン・・・」 榛に叩かれた頭頂部を撫でながら、風呂場へ行く。 なんだ・・・。キスしねーのか・・・。 って別に、期待とかしてねーし! ・・・・・・ 洗剤をバスタブに吹き付けながら、ふと考える。 俺って榛の事、好き、なのかな。 榛が名取の手を握ってた時、すげー嫌な気分だった。あれって所謂、嫉妬ってやつだよな。 すぐに俺にかまってくれなかった事にだって、なんでだよ、って思った。 自分が女の子に対してなんの興味も湧かないってのは、わかってる。 榛の裸にドキドキするって事も。 だからって、榛を好きかどうかはハッキリ言ってわからない。 嫉妬するから、好き?構ってもらえず苦しかったら、好き? なんかされるかもって期待するのが、好き? 榛はどういうつもりで、俺を好きだなんて言ってんだ? 「全部言わなきゃわかんない?」 開いたままの風呂のドアに腕を組んで寄りかかった榛が、呆れたように言う。 やば・・・。考えてたことが、つい口からも出てたのか。 「あき、トロすぎ。いつまでやってんの?早くしろよ。買い物も行くんだろ?」 「・・・うん。・・・あの、榛は、俺のどこが好きなわけ?」 聞きたい。俺なんかのどこがいいのか。 「項、かな」 ドアに寄りかかったまま榛が答える。 「うなじ?・・・って、そこだけ?」 「そこだけじゃ納得できない?顔だとか性格だとか言って欲しいの?」 「そうじゃねーけど!・・・やっぱいいわ」 つーか、もっと他にあんだろーが!何だよ、うなじって・・・俺の価値そこだけかよ! 訳の分からないイライラが込み上げて、スポンジをバスタブに思いっきり擦り付けた。 「あき」 背後から包まれるように榛の腕が伸びてきて、俺の体に緊張が走った。 榛の手が、ずり落ちてきた俺の袖をくるくると丸め肘まで捲り上げて、離れる。 「袖、濡れる」 心臓が急に早くなって、顔が熱くなる。 な、なんなんだよ、もう・・・。 「・・・ありがと」 榛が女子にモテてる理由がわかる。不意にこんなことされたら、男だってドキッとするわ! ああ、もう、心臓おさまれ! 不規則に早まった心臓の音に翻弄されながら、なんとか風呂掃除を終えた。 「すぐ買い物出れる?」 「うん。ちょっと待って。財布持ってくる」 二階の自分の部屋へ財布とジャケットを取りに入る。 「へー、ここがあきの部屋か」 「わ!勝手に入るな!」 「いいじゃん。彼氏なんだから」 部屋を物色し始める榛。 「漁るな!」 「何?見られて困るもんでもあるの?エロ本とか?」 「あるわけねぇだろ!もう行くぞ!」 榛を押しながら部屋から出て、ドアを閉めた。 エロ本なんかあるわけない。女の裸に興奮しないんだから。 ドンッ 「え・・・」 ドアの前に立つ俺を榛の腕が囲む。 抵抗する暇もなく顎が掬い上げられて、榛の舌が唇を割って入ってくる。 「ぁ、は・・・ふぁ、かはっ」 ドアに押し付けられて逃げ場も無く、榛の舌が喉の奥に届きそうなくらい深く入ってくる。 嗚咽が出そうになって、苦しくて涙が零れそうになった。 唇を離した榛が、潤んでいるであろう俺の目を覗き込んでくる。 「あき、苦しいのに勃っちゃうんだ?」 「はあ!?」 榛に言われて、俯いて下半身に目を向ける。 ・・・マジだ。半勃ちだけど。・・・最悪。 「続きは後でね」 榛は意地悪な笑顔を作って、階段を降りていく。 くっそ。なんなんだよ、ほんとムカつく。 榛にあんなことされて、やわ勃ちしてる俺も、なんなんだよ・・・。

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