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第49話 束縛王子 2
榛が食器を洗っている間もドキドキがおさまらなくて、胸が苦しい。
榛には何度も心を乱されてきたけど、好きだって意識した途端、こんなにも自分の感情が制御できなくなるなんて、思いもしなかったな・・・。
「そろそろ初詣行こっか」
「そうだな」
床に置いてあった自分のコートを羽織る。
「あき、それだけじゃ寒いよきっと」
首に長めのマフラーをぐるぐる巻いてくれる榛。
こういう所が、男前なんだよな・・・。あー、またトゥンクしそう・・・。
「・・・さんきゅ」
「なんか、モグラみたいだな、ハンマーで叩きたくなる」
どーゆーこと?モグラ叩きのモグラって事か・・・?
「馬鹿にしてんのか」
「かわいいって言ってんの」
かあっ、と顔が熱くなるのがわかる。かわいい、とか・・・男なのに、言われて嬉しい筈無いのに、榛に言われるとなんだかニヤけてしまいそうだ。
「行こ。カウントダウン間に合わなくなる」
「・・・お前、顔に似合わずイベント好きなんだな」
「クリスマスは興味ないよ。純日本人だから」
なんだそれ。
榛と並んで神社までの道を歩く。
この町の神社は、学問の神様で有名だとかなんとかで学生の参拝者が多いらしい。
神社の周りは俺たちと同年代くらいの参拝者で溢れていた。
「いちばん近い神社とはいえ、失敗したな。こんなに混んでるなんて思わなかった」
「いいじゃん。こんだけ人いたら、くっついてても不自然じゃないでしょ」
そう言って榛が体を寄せてくる。
榛と触れ合っている肩から腕が、じん、と熱くなって、なんだかこそばゆい。
手の平に榛の指があたって
あ、手繋ぐのかな・・・
と思ったその時
「あきじゃん!」
「・・・松田、とかおりちゃん」
思わずパッと榛の指から逃げるように手を離す。
「なに?お前らも初詣デート?」
「で!?デートなわけねーだろ!ただのお参りだよ!」
「なんだよ、急に怒んなよ。別に付き合ってんだからいいだろ、デートしてても」
そうかもしんないけど!
だからってデートとか恥ずい言い方すんなよ。
「なんか顔赤いぞ、あき。まだ熱あんの?」
松田が俺の額に手をあてて、無いな、と笑う。
「もうねー・・・よ?」
急に後ろから体を引っ張られて、松田の手から額が離れた。
背後から榛に、ぎゅっと抱きしめられているのだとわかった。
「いくら松田さんでも、勝手にあきに触るのは許せないです」
「・・・は?」
なんて?
「はは、ごめんて。まあ、仲良くやれよ」
「束縛王子こっわ!」
人混みの中へと消えていく松田と彼女。
「おい。お前、束縛王子とかって言われてたぞ。いいのかよ」
「別に。そう思われててもおかしくないでしょ、あんだけあきのクラス通ってたんだから」
榛の腕にぎゅううっと力が入る。
「ちょ、痛い。あと離せ!変な目で見られる!」
「いいよ。見せとこ。あきだってずっとくっつきたかったくせに」
げ!気付かれてた・・・
「てことは、わかってて焦らすような事してたのかよ!」
「モジモジしてるあき、すっげかわいかったよ?」
「ばっ!ふざけんな!」
ヤバイ、めちゃめちゃ恥ずかしいじゃん!
「ねえ、俺と何したかった?」
冷たくなった耳に榛の唇があたって、そこにビリッとした快感が走る。
「あきの耳、ちょー冷たい」
「はるっ、ちょ、まじでやめろって!」
「何したかったか、正直に言って。そしたら離してやるよ」
正直に、って・・・。そんな、こんな所で言えるわけねぇ!こんな人混みの中で。しかもなんかさっきから俺たち、めっちゃ見られてんですけど!
それに今から煩悩滅殺する鐘が鳴るっつーのに、煩悩の塊みたいな事、言えるわけねーだろ!
「言わないと、耳犯しちゃおっかな」
「は!?」
「言わないから、入れるね」
耳の穴に榛の舌がぬるっと入ってきて、出入りを繰り返してクチュクチュと濡れた音が頭に響く。
「ぅ・・・、んっ、い・・・言う!言う、から!」
「じゃ、言って」
「榛とっ、えっちな事、したかった」
・・・・・・・・・・・・・・・
「榛?」
言えって言ったくせにシカトかよ。
振り返ると、間近にある榛の顔が眉間にシワを寄せて固まっていた。
「え?なに、どした?」
俺、マズイ事言った・・・?
「・・・ほんとあき、そういうとこ、狡い」
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