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第7話【入院生活 3】

 それでは、リハビリ生活一ヶ月後の今日に話を戻そう。  前略……と言いながら経緯は全て説明したが、とにもかくにも一ヶ月前、俺――山瓶子麒麟はリビングデッドになった。  一ヶ月のリハビリで、完璧に人間の頃と同じ生活ができるかどうかと問われると……自信はない。  だが、歩行できる。階段の上り下りも可能だし、物も持てるようになった。事務仕事だから、タイピングと電話さえできれば問題ないだろう。それ以上のスキルはちょっとずつ磨いていこう。 「馬男木先生……一ヶ月間、お世話になりました」  事故から一ヶ月経ち、季節は冬に変わった。  病室から出る前、リビングデッドとして今後の通院スケジュールを確認した俺は、説明を終えた馬男木先生へ頭を下げた。  頭を上げると、相変わらず落ち着きのない馬男木先生が視界に入る。 「と言っても、週に一回は通院するのでこれからもお世話になりますが」 「そ、そう、ですね……えっと、ボクが勤め続けている限りは……ずっと、お世話、します……っ」 「それは心強いですし、馬男木先生なら安心です」 「っ、あ、は、はい……っ」  どうしたのだろう。粉雪が水滴に変わっている。保冷剤を用意し忘れたとか……だろうか。  リビングデッドになったことで腱鞘炎は見事完治したのに、病院とは一生お付き合いしないといけないが……生きているだけいいだろう。  そこで不意に、保険加入を勧めてきた友人が思い出された。  死の予告……叫ぶことはバンシーの習性だから、殺意があったわけじゃないと知っている。決して、鷭を責めるつもりはない。 「また一週間後に、よろしくお願いします」  物思いに耽りかけた思考を一旦現実に戻し、久し振りの我が家に戻ろうと歩き出した。  ――その時だ。 「山瓶子麒麟、さん」  突然、馬男木先生が俺を呼んだのは。 「貴方は、他種族に嫌悪感を持たない……素敵な人、です。だけど今の貴方は……他種族、です」 「……はい」 「中身が全く変わっていなくても、世間――人間から向けられる視線は……変わってしまうと思います。仲のいい友人や、同僚や先輩や後輩……その全てが、例外ではありません」 「理解しています」  両手でカルテを抱くようにして握る馬男木先生が、真っ直ぐに俺を見上げる。  その赤い瞳は……いつものように、揺れていない。 「だけど、忘れないでください。……ボクは、貴方の味方です。誰が何と言っても、ボクは貴方の理解者でありたい」  俺より小さな歩幅でゆっくりと近付いて、正面に立つ。  普段は全く合わない視線が珍しく……もしくは初めて重なり、何故だか胸の辺りがソワソワと落ち着かない。 「何でも相談してください。一人で抱え込まないで……一緒に、頑張りましょう」  それはきっと、馬男木先生にとったら何回目か分からない常套句だろう。何故なら彼は、医者だから。そんなことくらい、俺にも分かってる。  ――なのに、俺は……。 「はい。ありがとうございます、馬男木先生」  ――止まった筈の鼓動が跳ね上がりそうなほど、嬉しかった。

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