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第8話【社会復帰 1】

 退院をした翌日から、俺は以前のように会社勤めを再開した。  リビングデッドとして生きていくのにまだ慣れたとは言えないが、それは人として過ごしていた日常をこなしていくうちに何とかなるだろう。  身支度を整え、一ヶ月ぶりに出社する。歩き慣れた道を慣れない体で通り、見慣れた事務所の扉を慣れない手つきで開く。  ――すると。 『パンッ! パパンッ!』  破裂音が聞こえた。  それと同時に……見知った顔ぶれが目に飛び込む。 「「「山瓶子さんっ! 退院、おめでとうございますっ!」」」  それは……一ヶ月前まで一緒に働いていた、会社の同僚達だ。  同期や上司に部下……数人が紐を引いて役目を終えたクラッカーを握ったまま、俺を見ている。 「山瓶子さんがいない間、仕事はきちんと割り振ってこなしましたよ!」 「完璧にフォロー……とまではいかなかったので、あんまり楽させてあげられないですけど」 「何はともあれ、ひとまず無事で良かった!」  見知った顔ぶれから瞬時に囲まれ、俺は視線をウロウロと彷徨わせた。誰かに返事をしようとしたら、別の誰かが喋りだしてしまう。誰を見たらいいんだ、俺は。 「ム……」 「「「リビングデッドになっても癖はそのままだッ!」」」 「ム、ムゥ……ッ」  困った時についつい『ム』と唸ってしまう俺の癖を知っている同僚が、口を揃えてそう指摘する。そして、天使が本当に職場へフォローをしてくれていたのか……俺がリビングデッドになったことは、全員知っているようだ。  一度だけ深呼吸をし、俺はまず……直属の上司である課長を見た。 「課長。一ヶ月もの間、ご迷惑をお掛けしてしまい……申し訳ありませんでした」 「山瓶子、頭を下げるな。上げろ上げろっ」  深々とお辞儀すると、すぐさまそう言われてしまい……俺は渋々頭を上げる。  優し気な瞳をしている初老より若干年配な課長は、わざとらしく一度だけ咳払いをした。 「オホン! 他種族に疎い俺は、山瓶子がリビングデッドになってどのくらい大変なのか……そこらへん、よく分からん。が、この会社にも他種族はいる。何も心配することはない」 「課長……ありがとうございます」 「これからも一人の社員として、よろしく頼む」 「承知いたしました」  それを聞いていた職員も、頷いたり笑っていたり感動したような顔をしていたり……思い思いの感想を抱いているようだ。  俺の同期にも、他種族はいる。だから俺の存在は、決して稀有じゃない。  事務所の皆に挨拶をした後、俺は未だ慣れていない体を何とか動かしながら……一ヶ月前までの日常を取り戻す為、邁進し始めた。

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