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第11話【通院 2】
それからまた、一週間後の早朝。定期健診の為病院へ向かっている途中、一人の友人を見つけた。
「鷭」
「ぎあッ!」
そう、女妖精【バンシー】の鷭だ。……女で妖精というそれはそれは可愛らしい肩書を持っているくせに、その悲鳴はどうかと思うが割愛。
慌てた様子で俺を振り返った鷭は、私服姿だった。コイツはボーイッシュな性格と見た目をしているくせにファッションセンスは……えぇっと、何て言ったか……ファンシー? だ。
ふわっとボリュームのあるスカートを翻し、俺の顔を見た鷭を見下ろしていると……不意に、鷭の眉が切なげに寄せられる。
「き、りん……っ? きりん、き……麒麟~ッ!」
「ム……ッ!」
ここは人がそこそこ行き交う街中で、身長が百八十センチを超える男と百五十センチくらいの女が見つめ合い、突然女に泣かれたら……傍から見るとどう思う? どう見たって、俺が悪人だろう。
「よ、よか……よが……う、うわぁあん……ッ!」
「ば、鷭。すまない、今はその、泣かないでくれないかっ」
「だって、私のせいで麒麟がぁあ……ッ!」
「色々と話したいことがあるから、ひとまず場所を変えよう。と言うか、変えさせてくれ頼む」
泣きじゃくる鷭の腕を引き、俺達は人通りの多い場所から少し離れた公園に向かって歩き出した。
ひとまず雪は降っていないけれど、だからと言って決して温かいとも言えないであろう気温の中……俺と鷭は一つのベンチに腰かけていた。
自販機で買ったホットココアを手渡すと、鷭がすすり泣きながら受け取る。
「ありがとう……っ。それと、ごめん……いきなり、泣き出して……っ」
「いや、無理もない。だから、気にするな」
「うん……っ」
入院中、俺は鷭と会っていない。そしてそれは、退院してからもだ。
一応、意識を取り戻して現状を把握した後……スマホに搭載されているメッセージアプリを使い、鷭に連絡はしていた。保険が適用されて生きていることと、念の為入院している場所も。
しかし、鷭は病院に来なかったのだ。
「病院……お見舞い、行けなくて……ごめんね」
ココアの入った缶を握り、鷭は俯く。
「言い訳みたいに聞こえるかも、なんだけど……行く気はあったんだよ? あったん、だけど……病院には、近寄りたくないの」
「あぁ、分かってる」
バンシーは死を予告する為に叫ぶ。それはもう根強い本能でやってしまうことだから、バンシー自身にも止められない。
病院なんていう病人や死と隣り合わせの患者が沢山いる場所に行ったら、営業妨害以外の何ものでもないと……そう言いたいのだろう。
「気にしていない」
そう言っても、鷭の顔色は優れなかった。
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