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第12話【通院 3】
俯いたまま、鷭はポツリと続けた。
「涙が出た時から、おかしいとは思ってたんだ……っ」
勧められた保険に契約した時、鷭は泣いていた。ノルマ達成がそんなに嬉しいのかと思っていたのだが、なるほど。ヤッパリあの涙はただのうれし泣きではなかったらしい。
バンシーは別名【泣き女】とも言うらしく、死の予告を叫び声だけでするタイプもいれば泣きながら叫ぶタイプもいるようで……まさに十人十色。
「麒麟……本当に、ごめんなさい……っ」
そう言うや否や、隣で座っていた鷭が突然立ち上がり……正面に立ち、頭を下げてきた。
「私があの時、叫ぶのを我慢できてたら……もしかしたら、麒麟はまだ人として生きてたかもしれないのに……っ」
「鷭、顔を上げてくれ」
名を呼ばれた鷭が、恐る恐るといった様子で頭を上げる。
――その瞳は、酷く潤んでいた。
バンシーが叫ぶのは、習性だ。決して、殺したい相手を自分で選んで殺意を持って叫ぶのではなく、ただ純粋に『死が近いよ』と知らせているだけ。
「鷭が殺したわけじゃない。だから、謝るな」
そう、まさにそういうことだ。
俺の死が近かったのは、鷭のせいじゃない。むしろ鷭はそれを知らせてくれた。結果は何であれ、決して鷭に非はない。
俺の言葉からそこまでの意味を察してくれたのか、鷭は視線を彷徨わせた後……俺を見た。
「……うん、分かった」
「あぁ。この件はこれで終わり……それでいいな」
「うん……」
小さく頷いた鷭が、再び俺の隣に座る。
風が吹くと、鷭は肌寒く感じるのだろうか。温度に対して何も感じなくなってしまった俺は、話題を変える意味も込めて……鷭に話を振った。
「寒くないか?」
「うん、大丈夫。って言うか、もうずっとここにいたいくらい」
「ム? どこかへ行く途中じゃなかったのか?」
ただの散歩で、こんな朝早くからあんな街中を選ぶとは到底思えない。引き留めてしまったが、本当は何か予定があったんじゃないか……今更過ぎる指摘に、鷭は暗い顔をした。
「は、ははは……会社って、残酷だよね……」
「『残酷』? 何のことだ?」
「今から行くところのヒントをあげる……」
そう言って鷭は、肩から下げていた……ファンシー? な……ポシェット? から、財布を取り出す。
そしてそのまま……保険証を取り出した。
――どうやら俺達は、目的地が一緒らしい。
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