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第30話【夢 2】
俺本人を置いて、話がどんどん飛躍していく。二人の中では、俺と雪豹先生が両想い……というところまで進んでいるらしい。
黙って聞いていると、俺の視線に気付いた片方の同僚が笑みを浮かべたまま……予想外のことを口にした。
「――まぁ、他種族同士……いいんじゃないか? お似合いだろ?」
瞬間、もう片方の同僚が口を挟む。
「オ、オイ!」
「あ? …………あっ! わ、悪い!」
『他種族同士』……? ……あぁ、そうか。
――俺は今、他種族だ。
同僚二人は人間で、同期だ。同じ日に入社して、そこそこの苦楽を共にしてきた……正真正銘の同期。
だからつい、失念していた。
「今のは、他意があったワケじゃなくてな? ホラ、人間の時よりは可能性あるんじゃなかって言うか……あぁ、コレも良くないか! えっと――」
「いや、気にするな」
必死にフォローしようとしている同僚の言葉を遮って、頷く。
リビングデッドは他種族だ。間違いじゃない。そして、謝られるようなことでもない筈だ。
「それよりも……俺が先生を好きだとか、先生が俺を好きだという前提の方が気になる。先生に失礼だ」
「お、おう。悪かった」
重くなりかけた空気を何とか変えたかったのか、片方の同僚が別の話題を振る。すると、同僚が素早く乗りかかった。
雪豹先生にも、夢の話をしてみよう。ちょっとした雑談になるだろうか。
その時の俺は……このやり取りをあまり気にしていなかった。
――筈だ。
それから数日後……診察の日。年内でこの病院に来るのもあと一回かという年末シーズン。
せっかくなので俺は、あの日見た夢の話を雪豹先生にしてみた。
すると、同僚とは違う角度で……それはそれは予想外な言葉が返ってきたのだ。
「なるほど。懐かしい過去の夢を見たのか……懐かしい過去を思い出している自分の夢を見たのか……ですか」
……いや、まるで俺がそんなテーマで話を振ったかのような反応だが、俺はそんな意図は全く込めていないぞ。
そういう性格なのか、はたまた医者だからなのか……雪豹先生の返答は、随分と難しい。
同僚には『他種族をどう思うか』というテーマで訊いた。だったら雪豹先生にはどういう意図で訊いたのかと言うと……『こんなこともありましたよね』と言った、フランクな内容のつもりだ。
「いえ、そういうつもりではなく――」
「スミマセン。ボク、そういった精神面での勉強は、まだ……あ、あのっ。もっと、頑張ります……スミマセン」
挙句の果てには落ち込ませてしまったらしい。
それならいっそ、同僚のように『ボクのこと好きなんですか』くらい言ってほし――いや、キャラに合わないな。
結論。どうやら俺は、雑談というものが苦手らしい。
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