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第33話【孤独 2】

 リビングデッドは人じゃない。  味覚と嗅覚、そして聴覚はあるけれど触覚や痛覚がなく、歩いていても地に足のついた感覚はなかった。それは手でも同じで、何かを掴んでも物の温かさや冷たさ、硬さも柔らかさも感じないのだ。  音や匂いは感じているのに、それ以外が切り離された世界。  ――リビングデッドはきっと、孤独だ。  あの日から何となく同僚と顔を合わせづらくて、俺は定時退社を心掛けてしまった。他の人ともうまく話せず、何となく周りを気にしてしまう……そんな日々。  雪が降る日、年内最後の診察を受ける為に病院へ行くと……いつもと変わらない表情で俺を見上げる雪豹先生が、病室に居た。 「そろそろ、忘年会シーズンですが……えっと、アルコールはまだ、あの……試してない、ですか?」  診察を終えた雪豹先生が、そんな話題を振ってくれる。いつもなら嬉しいのに、今回はその話題がタイミングなだけに……あまり、心が弾まない。 「忘年会の出欠を訊かれたのですが、欠席と答えました」 「え……あ、もしかして……どこか異常が? 診察結果に異常は、えっと……ない、ですけど……っ」 「いえ、そうではなく」  今日とこれまでのカルテをパラパラと捲る雪豹先生に、慌てて否定の言葉をかける。  宴会は、嫌いじゃない。今まで欠席なんてしたことなかったし、しようと思ったこともなかった。  ――ただ、どうしても……【人】の近くに、いたくなかったのだ。 「気乗り、しなくて。大勢と飲み会しようと、思えず」 「大勢、と……」  言葉を区切ると、ピタリと動きを止めた雪豹先生も口を閉ざす。  しまった。せっかく話題を振ってもらったのに、空気を重くしてしまったかもしれない。そんな負い目から、雪豹先生へ視線を向けた。  ――すると、何故か雪豹先生が毛先から水滴を零しているではないか。 「あ、あの……少人数、でしたら……っ」 「すみません。よく、聞き取れないです」 「あ、えっと、あのっ! しょ、少人数――ふ、二人、でしたら……ど、どうでしょうか……っ!」  顔を上げてしっかりと俺を見据えた雪豹先生が、水滴を零しながらそんなことを言ってきた。 「その……前回の、リベンジ……と、言いますか。あ、あのっ、ボク、忘年会ってしたことがなくて……麒麟さんさえ、良ければ、ですけど……っ」  どんどん声が小さくなっていく雪豹先生が、どんどん溶けていっている。このまま放っておいたら消えてしまうんじゃないかというくらい、ポタポタと水滴が滴っているのだ。 「き、気乗り……しません、か?」  おそらく、凄く勇気を振り絞ってくれたのだろう。  だから俺は後先考えず、誘いに応じてしまった。

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