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第34話【孤独 3】

 仕事納めの日。俺は雪豹先生と二人っきりで忘年会をすべく、部屋の掃除をしていた。  前回は雪豹先生の部屋を使って飲み会をしたから、今度は俺の部屋で……と誘ったのだ。雪豹先生は遠慮してか、顔を真っ赤にしていたけれど……ここは俺にも意地があったので、了承してもらった。  退勤した後急いでアパートに戻り、着替えを済ませてから部屋の掃除を始める。雪豹先生の仕事が終わるまで少し時間があったからこそできた掃除だ。次からはもう少しマメに掃除をしよう。  念の為、冷蔵庫と冷凍庫に雪をありったけ詰め込んだ。アパートの住人にはかなり不思議がられたが、回収したのはアパートの敷地内にあった雪だから除雪してくれたと解釈してもらい、深くは問い質されなかった。  雪を詰め込んだ後、掃除をするスイッチが入ったままの俺は、外へ出る前に持っていく財布の中身を確認する。金は勿論、レシート整理もだ。  そこで一つのカードを見て、手が止まった。 「……保険証、か」  それは一ヶ月の入院期間中に交付された、新たな保険証だ。種族の欄があり、そこにはハッキリ【リビングデッド】と記載されている。  リビングデッドになってから病院で受付をする時、いつも提示していた物だ。もう珍しさを感じない。  けれど、今はそれを持ち歩きたくなくて……俺はテーブルの上に保険証を置いて、部屋から出た。  職員寮に辿り着いたタイミングで、雪豹先生の姿を見つけた。どうやら今、部屋から出てきたらしい。  ――が、いつもと装いが違う。 「あ、お、お待たせしました……あ、違いますね……えっと、お疲れ様です。……あ、その……迎えに来てくれて、ありがとうございます……あ、ど、どれから言えば……っ!」 「落ち着いてください」  どれからも何も、全部言ってるぞ。  慌てふためく雪豹先生を宥めてから、俺よりも背の低いその姿をマジマジと眺める。 「……き、麒麟、さん……っ?」 「スーツ以外の服、買ったのですか」  雪豹先生の服装は、スーツじゃなかった。  パッと見ると、普通のジーパンにダウンコートを羽織っている青年に見えるが……おそらく内側はゴムでできていたり保冷剤を詰めていたりと、オーダーメイド且つ普通じゃない装い。  けれどスーツ姿以外を初めて見たものだから、思わず口を挟んでしまった。 「あ、はい……その、スーツだと仕事って感じがしちゃうかと思って……麒麟さんが、以前『次』と言ってくれたので……その、買いました……っ」  どうやら相当楽しみにしてくれていたらしい。  同僚とは外出をしないのだろうとは薄々感じていたが、こんなに誰かと外出するのが好きならもっと誘えばいいのに。とは思うが、口は出せない。  ――きっと、他種族にしか分からない何かがあるのだろう。 「行きましょうか」 「はい……っ!」  今日は忘年会だ。こんなに嬉しそうな雪豹先生に、暗い顔はさせたくない。  俺も今日は……自分がリビングデッドだってことを、考えたくないからな。

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