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第35話【孤独 4】

 アパート近くのスーパーで総菜と飲み物を調達した後、俺は雪豹先生をつれて歩いた。  街灯で照らされているけれど空は真っ黒で、雪なり雨なりが降りそうな雲行きだ。  けれど、今日は雪が降ってもいいと思う。雪豹先生が万が一融けても大丈夫なように、だ。 「すみません。短時間で片付けたので、あまり綺麗ではありませんが」 「あ、お、おかまい、なく……っ」  小さく一礼した後に「お邪魔します」と呟いた雪豹先生を部屋へ招き、扉を閉める。  お世辞にも雪豹先生の部屋みたく綺麗ではないが、雪豹先生は何も文句を言わない。 「ひとまず、そこ座っててください」 「分かりま――あ、麒麟さん」 「はい、何でしょうか」  名前を呼ばれたので振り返ると、雪豹先生が困ったように俺を見上げていた。 「保険証。いざという時に持っていないと、困っちゃいますよ……?」  雪豹先生が両手で持っているのは、俺がわざと置いていった保険証だ。  眉尻を下げながらはにかむ雪豹先生から、俺は視線を逸らす。 「気を付け、ます」 「はい」  わざとと言えど、医者の前で保険証を持ち歩いていないとバレたのは……失礼だったかもしれない。たぶんそんなこと、雪豹先生は気にしてないだろうけど。  狭いテーブルに料理と飲み物を並べると、雪豹先生は嬉しそうに肩を揺らして笑った。 「どうかしましたか」 「あ、す、スミマセン……っ! その、嬉しくて、つい……」  スーパーで買った料理を眺めて、雪豹先生は笑っている。 「ボク、雪以外は何も食べたり飲んだりしないんです、けど……こうして誰かと一緒に飲み会ができて、嬉しいです」  買い出し中、雪豹先生は何も欲しいと言わなかった。前回コンビニで買い出しをした時もそうだったが、どうやら雪豹先生は普段から食事を一切しないらしい。  だったら買い出しは俺一人でもいい気がするが……それじゃあ駄目だ。  ――俺からしたら、大きな意味合いはない忘年会だけど。  ――雪豹先生からすると、この忘年会は特別なのだから。 「……だったら、お金は折半じゃなくて全額俺に払わせてほしいです」 「うっ。ボ、ボクも何か食べます……っ」 「無理は」 「し、しません……スミマセン」  正座したまま膝に手を付き、落ち込んだように俯く雪豹先生が可笑しい。  思わず笑みを浮かべると、雪豹先生の毛先から水滴が零れた。冷凍庫に雪を詰めておいたのは正解のようだ。こう見えてタオルの用意もバッチリなので、突然融けても対策は万全である。  テーブルの上に食べ物を並べてから、俺は雪豹先生と缶ジュースで乾杯した。

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