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第36話【孤独 5】
とりあえずテレビを見ながら、時々雑談を交わす。雪豹先生は終始慌てた様子で返答していたが、口角は上がっていたので楽しんでいるのだろう。その様子を見ていると、俺も楽しい。
念願――と言う程でもないが、ずっと気になっていたアルコール摂取……つまりは酒を飲んでみるも、人間の頃と何ら変わりはなさそうだ。
「適量であれば、徐々に抜けていく……と、思います。なので、あまり飲みすぎないでくださいね……っ?」
とのことらしい。元々酒に弱いわけではないが……備えあればなんとやらというもので、医者がいるから安心だ。
酒を飲むとそれはまぁ楽しくなったりもするもので、最近は鬱々とした気分が続いていたのもあって、俺はすぐ上機嫌になった。
「今日は誘ってくれて、本当にありがとうございます」
「あ、いえっ! ボクの方こそ、感謝してもし足りない……です」
「……実は最近、少し気分が悪かったので……正直、助かりました」
「え……?」
俺のぼやきに、雪豹先生が表情を変える。
「ヤッパリ、どこか具合が悪かったり……不調なんですかっ?」
嬉しそうに笑った顔が一変、雪豹先生は医者の目で俺を見た。正式には診ている、か。
けれど決してそういう不調の訴えではないので、俺は手をヒラヒラと振ってみせる。
「違います、違いますよ。……職場内のストレス、ですかね」
「あ……えっ? 職場、ですか……?」
――酒に浮ついた自分と、どこかで冷静な自分が向き合っている……気がした。
こんなこと、雪豹先生に今話すことじゃないだろう。そうは思っても、どこかで誰かに聞いてほしいと思っている自分もいるわけで。
――だから俺は、ポロッと愚痴をこぼしてしまった。
「俺って、人間だった時と何が違うのかなって」
俺の呟きに、雪豹先生がピタリと動きを止める。
――やめておけ。冷静な自分が、そう言っている。
けれど一度開いた口は、塞がらなかった。
――何だかそれが……自己再生できない自分を比喩しているようで、酷く憎らしい。
「同僚に、ちょっかいをかけられていたみたいです。『みたい』って他人事で言っちゃうなんて、情けないでしょう? 自分で気付けなかったんです」
「麒麟、さん……待ってください、落ち着いて……っ」
動きを止めていた雪豹先生が、立ち上がった。そのままテーブルを挟んで向かいに座っていた俺へと近付いてくるけれど、それが何だ。
「この酒、冷えてるのかぬるくなってるのかも分からないんです。味はしても温度が分からないなんて、可笑しな話ですよね? あぁそうそう。リビングデッドになってから俺、一回もトイレに行ったことないんですよ。だって尿意とかを感じないんですから。何でなのかって冷静に考えたら分かりますよね? 内臓が機能していないからです」
こんなことを話して、何になるだろう。
この気持ちは……リビングデッドじゃない雪豹先生には、分からないのに。
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