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第40話【孤独 9】

 雪豹先生に好意を寄せられていたと仮定して、真っ先に考えることがある。  ――いつから?  俺と雪豹先生が話すようになったのは、俺がリビングデッドになったあの日だ。順当に考えるなら、一番早くてもその時だろう。  ――つまり、俺が【他種族】だから? 「……んだよ、それ」  味方と言ってくれたのは、雪豹先生だった。  あの時俺は、本当に嬉しかったんだ。一人じゃないんだって、分かってくれる相手がいるんだって。本当に、純粋に……嬉しかったんだ。  ――なのにどうして、俺はこんなに孤独なんだろう。 「俺が死んで――他種族だから好きなんでしょうッ!」  痛むはずない胸が、こんなにも痛い。  他種族に嫌悪感がないのに、周りは違う。  退院する日、雪豹先生が言っていた通りだ。 『中身が全く変わっていなくても、世間――人間から向けられる視線は……変わってしまうと思います』  だったら俺は、どうしたらいい。  自分で選んだことなのに、俺はこの気持ちを……怒りを悲しみを、どこにぶつけたらいいんだ。 「死体になって動き回ってる俺を見て、ドキドキしたんですかッ! 他種族を嫌う【人間】が他種族になって、同じ立場になって……だから、高揚したんでしょうッ!」 「ちが、違いますっ! ボクは、そんな理由で麒麟さんのことを、す、好きに……好きに、なったわけじゃありませんっ!」 「嘘だッ! 誰が信じられるかッ!」  夢を見た時に、気付けていたら良かったのに。  ――どうか、他種族であることを悲観しないでほしい。  ――そしてどうか……他種族である俺を、雪豹さんだけは変わらず……受け入れて。 「――元から化け物のアンタに、俺の気持ちは分からないッ!」  こんな孤独感を抱くなら、リビングデッドになんかなるんじゃなかった。  叫ぶようにぶつけた言葉がどれだけ痛烈なものだったのか……吐き出して、頭がクリアになってから気付く。  ハッとして、床に押し倒した雪豹さんを見る。  雪豹さんは体を小刻みに震わせて、自身を押し倒した張本人である俺を見上げていた。  そしてそのまま、震える唇で……言葉を紡いだ。 「ご、めん……なさい」  雪豹さんは依然として、涙を流してはいなかった。  ――けれど、確かに……泣いているのだ。 「ボクは、医者として……担当医として、貴方を守れなかった……っ。貴方を見ていたのに、心の傷に……気付かなかった」  赤い瞳を揺らしながら、泣き出しそうな顔で涙も流さず泣きながら、雪豹さんはひたすらに贖罪の言葉を紡ぎ続ける。 「ボクをどうにかすることで、貴方の気が晴れるなら……ボクは、どうなったって構いません……っ。担当医だから――貴方が、好きだから」  嘘偽りない言葉に、体が震えた。 「だからどうか……自分を、自分自身を、嫌いにならないで……っ」  頼りなさげで、いつもオドオドしている雪豹さんだけれど。  こんな状況だというのに……雪豹さんは変わらず、俺の味方でいてくれている。  なのに俺は……その想いに、気付けなかった。

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