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第43話【雨 2】

 女二人から問い質した場所へ向かうと……見覚えのある髪色をした人物を見つけた。  ――厳密には、人じゃないけれど。 「雪豹さんッ!」  閉店した店の前で膝を抱えて蹲っている知り合いに、声を掛ける。  名前を呼ばれた雪女――ではなく雪男は、肩をビクリと跳ねさせた。 「……き、きり――っ!」  膝に当てていた顔がゆっくりと上げられ、途中まで名前を呼ばれる。やはり間違いなかった。  店の屋根で雨宿りをして震えていた雪男は……雪豹さんだ。足元が凍っているのは、雪豹さんの体温で雨が冷えたからだろう。  雪豹さんが俺の顔を見るなり息を呑んだけれど、今は何よりも雪豹さんの安否確認が先だ。 「良かった、融け――」  俺の言葉を遮ってまで投げられたのは、予想外の声量。 「何してるんですかっ!」  それと、怒号だった。  雪豹さんは体をガタガタと震わせたまま、俺の腕を強く引く。半ば強引に屋根の下へ連れ込まれると、雪豹さんが珍しく……眉を吊り上げて、睨んでいるではないか。  追い出したくせに、今更追い掛けてくるなって意味か? 安否確認も大事だがそれよりも謝るのが先決だと考えた俺は傘を握り直し、言葉を探す。 「少し、冷静になって――」 「体っ!」 「そう、から――体?」  眉間に皺を寄せた雪豹さんはそう怒鳴るや否や、俺の顔に手を伸ばした。 「皮膚が腐るかもしれないから、体の水気は大敵ですって……ボク、言ったじゃないですかっ!」 「勿論、憶えています。ですが――」 「言い訳しないでくださいっ!」  体を震わせたまま、雪豹さんが俺の頬を撫でている。そのまま首を撫で、ゆっくりとシャツも撫で始めた。  その行動の意味が分からなかった俺だが……雪豹さんの体を見て、ようやく理解する。 「――まさか。水、吸ったりしていませんよね……ッ」  伸ばされた手を掴むと、依然として俺を睨んだままの雪豹さんと目が合う。  ――そう雪豹さんは俺の体に付いた水分を……吸収、しているのだ。  勿論、俺は乾くだろう。だけど、雪豹さんはどうなる。  制止の意を込めた問い掛けに、雪豹さんが不満げに反論してきた。 「だったら、何か問題……ありますか」 「何言って……ッ! あるに決まってるじゃないですかッ! 何で、そんな自殺行為みたいなこと……ッ!」 「ボクはどうなったっていいんですっ!」  濡れて小さくなったのか、濡れた俺の水気を吸ったから小さくなったのか……職員寮から出てきた時はピッタリサイズの服だった筈なのに、今の雪豹さんは袖が余っている。  一回り小さくなった雪豹さんは俺を睨み上げたまま……体を小刻みに、震わせていた。

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