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夏の鳥(6)

 花火の光に見えた辻は舞で流した汗を感じるほど近くにいた。  不意に辻は竜一の両肩をつかんで、唇に軽くキスした。そのまま竜一を抱きしめて耳元でささやいた。 「なんか、お前に済って言われると、興奮する。俺も頭打ったかな」  やはり辻と会うと全てがどうでもよくなってしまう。わだかまりが溶け流されて、今この一瞬のことだけしか残らなくなる。 「つ……ワタル」  震える声で名を呼びかける、辻は竜一の名を味わい尽くそうとするように竜一の耳元でねっとりとささやいた。 「りゅう、いち」  名を呼び合うと、竜一は膝だちのまま辻の唇に唇を重ねた。待ちかまえていたように辻の舌が竜一を出迎える。汗ばんだ肌同士が身体と身体を引き寄せていく。辻の肉体の存在を腕の中に、口の中に、全身に感じる。舌をからめて力一杯辻を抱きしめると、辻は竜一の腰をぐっと引き寄せた。辻の指が制服の下に入り込んでくる。背筋そって指をすべりおろし、腰骨のラインを丁寧になぞる。そして腰の真ん中のへこんだ部分に指を遊ばせる。 「……ちょっと、あ」  竜一は背中をそらせてびくびくと痙攣した。こんな風に人から触られたことはなかった。たった指が背中に触れただけで、身体が今まで感じたこと無い快感が呼び覚まされている。  指は下着の中にはいりこんできた。割れ目の間に入り込み、もう少しでもっと体温を感じる部分まで入ってしまいそうになるが、その一歩手前をゆるやかに撫でさする。 「ああ……」  いつの間にかベルトがはずされ、制服のズボンに辻の手が掛かった。ズボンと同時に下着も膝まで引き下ろされると、竜一の男根は勢いよく夜空に飛び出していった。  恥ずかしいとは思わなかった。辻に負けないほど大人の身体を得てきたことを証明できた喜びに頬が熱くなるほど興奮した。ペニスの先から漏れる先走りの滴を辻が笑顔で見守ってくれているのも嬉しかった。  花火も二人を祝福するように空一杯に広がった。  花火の光に照らされた辻はにこにこと笑いながら、優しく竜一を押し倒すと、竜一のいきり立った亀頭を舌の先だけでちろちろとなめはじめた。 「あ、ん」  声を出しそうになって唇をかむ。辻はこっぽりと亀頭をくわえこんで、唇を動かした。 「あ、あ、はぁっ」  舌が陰茎吸いつくようにからみつく。腰が自然と上がり、前後に振れてしまう。筋肉が一点に向かって収縮していく。そしてすでに愛撫で高められていた身体はあっけなく辻の口の中に射精した。 「ワタル……」  ごくりと辻はそれを飲み下し、膝立ちになるとジャージのズボンを引き下ろした。  ひときわ大きな花火が炸裂した。隆々と立ち上がった辻の男根がシルエットになって浮かび上がった。 「ああ……」  竜一はもっと明るいところで辻の男根をしっかり眼に焼き付けたいと思った。 「辻くん」  花火の音にかき消されそうになりながらも、かすかに石段の下から辻を呼ぶ声が聞こえた。 「ちっ」  辻は舌打ちすると自分の手で男根をしごきだした。これから何かが――何かはわからない――起こることを期待していた竜一は、豪奢に輝く幻想の城が跡形もなく崩れ去っていくような情けない気分になった。 「くっ」  空中に辻の精液が花火の光を受けてきらきらと飛び散った。竜一はその滴を手のひらで受けたいとさえと思ったが、それは地面に落ちて土に吸い込まれていった。  辻は首に巻いていた手ぬぐいを歯でぴっと半分に裂いて一枚を竜一に放った。  もう一枚は自分で使うとぽいっと崖下に投げ落とした。 「辻くん、どこにいる。俊英のやつらが」  声が近づいてくる。あわてて竜一も服装を整えた。  辻はもう鳥居の方に向かっている。竜一はちらっとリュックを見たが、手にすることなく辻の後を追った。 「辻くん」  坂口ともう一人が獣道を走ってくる。 「ここだ、俊英のやつらがどうしたって」 「真島と田中がからまれた。あっちは工業の奴らも混ざってて十人くらいだ。白波止の方だから警察はいねぇ」 「わかった、今行く」  真島と田中は春に辻を神楽の練習に呼びにきた後輩だ。高校は違うとはいえ地元の後輩に手を出されて黙って見過ごすわけには行かない。警察には見つからないようにカタをつける。警察に介入されるなど漁師の子たちにとっては名折れだ。  喧嘩がはじまる。 「俺も」  辻の後ろから現れた竜一に、坂口は鋭い一瞥をくれて、ぺっと唾を吐いた。  辻は竜一だけを見つめて、晴れ晴れとした明るい笑顔を見せた。 「お前は大学行くんだろ」  辻が背を向けた。 「行くぞ」  野太い声がおぅとこだまする。辻は先頭に立って石段を駆け下りていった。  鳥が、飛んでゆく。

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