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愛人と本妻(6)

 再び月曜が巡ってきた。あの静かな朝はもう無い。実和子のメンバーは変わらず気を使ってくれていたが、あまり意味はなかった。二人が歩けば窓から、玄関先から声がかかる。 「あんたすげぇな」 「次はいつあるんだい」 「夏は楽しみにしてるよ」 ……  大人たちの遠慮のない賞賛が辻の上に降り注ぐ。まるでパレードのようだ。 「まいったな」  辻は本気で頭を抱えていた。  人を避けて畑道を行く。空は朝から晴れ渡っていて冷え込みもひどい。道ばたの枯れ草にも霜が降りていた。狭い道を並んで歩くとふっと指が触れてどちらからということもなく手をつないだ。二人とも指先は冷え切っていた。互いの体温を交換するように、握った手が温かくなってゆく。 「今週の土曜はもっと早く行くよ。テストの後だから早く帰れる」 「あ、そういやうちも期末テストだった」  のんきな声に竜一の方が不安になる。 「そういやって……大丈夫なのか。結構休んでるだろ」  竜一の時は一年生だからまだ何とかなったが、二年の冬に長く休むのはなかなか取り返しが難しいのではないだろうか。その上休んだ理由が理由だ。 「留年はないと思うぜ。どうせ無くなる学校なんだ。まとめて追い出したいんだろ。補習やらなんやらしてもらってる」  教師たちの困惑した顔が見えるようだ。まぁ自分も違った意味で随分困らせている方だと思うからこの点については何も言えない。 「でも、全部の教科六十点以上取れっていうんだぜ」  ぎゅっと辻の手が竜一の手を握り直し、ぶらぶら振り回す。 「で、本当の手応えは」 「うーん、五分五分」 「じゃ、だめでも追試でなんとかしてくれるだろ」 「かな」 「よぉ」  いきなり頭上から声がかかった。あわてて手を離して上を見ると、段々畑に首にタオルを巻いて毛糸の帽子をかぶったじいさんが立っていた。 「夏より男っぷりがあがったなぁ」  どこで覚えたのかじいさんはぐっと親指を突きだしてみせた。 「はぁ……どうも」  辻にしては生ぬるい返事だった。じいさんが自分の存在を認めているのかなどどうでもいい。竜一はおかしくて仕方がなかった。  町の住人との朝の攻防は週末になっても続いた。辻は心底うんざりしていたが、舞の練習はやめなかった。  土曜日、すべてのテストが終わると竜一はバスに飛び乗って帰路を急いだ。  夕方と言うにはまだ少し早い時刻に神社の石段までたどり着いたが、上を見るともう人だかりができていいる。  階段を上りきったところで竜一は先頭をとるのはあきらめた。中から笛太鼓の音はするから練習は始まっているのだろうがまだ扉は開いていない。しかしすでに十重二十重と人が取り囲み、竜一が並んだ時点で中が見えるか見えないかといったところだ。  これが流行というものだろうか。面白がっていたがあまり熱が上がるのも少し怖い気がした。

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