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第3話
「え、えっと……どんな人なんですか?」
「敬語でなくて構わない」
「……」
「元冒険者だ」
それを聞いて、僕は思わずウィルの姿を目で探した。あの麗しい兎獣人ならば、シオンに惚れられてもおかしくはない。この店にいると言っているのだから、恐らくはウィルだろう。先程、ダジャレ(?)の解説をしようとしたのも、ウィルの発言だったからなのかもしれない。
「その……上手くいくと良いですね」
「敬語になっているぞ」
「……応援してる」
「そうか。今の所、脈がありそうで無かったようだと確認した段階だが、俺も自分で自分を応援している」
「シオンなら、きっと大丈夫だよ」
何せ、シオンほど素敵な人物は、存在しないと思う。
「俺もそう思っていたんだ。その相手は、俺と話す時だけ、いつもの無表情から笑顔になる事が多いからな」
僕は一度も笑顔を見た事が無いウィルについて考えた。絶対にこれは、ウィルの話に違いない。
「いつ好きになったんですか?」
「約四年前だ」
僕がシオンに助けられたのも、その頃の事である。当時はウィルも冒険者だったように思うから、やはり確定的だ。
「一目惚れだった」
分かる。ウィルは綺麗だ。シオンの横に並んでいても相応しいだろう。
「その相手が冒険者を止めて、別の仕事を始めてからは、主にその相手に俺は、理由をつけて対応してもらうようになったし、今もそうしている」
きっと、注文を取ってもらったり、料理を運んでもらっているという意味だろう。
「気づけば、ひたむきに仕事を頑張っている姿を見て、どんどん惚れ込んでしまったんだ。そろそろこの気持ちを一人で抱えるには耐え難くてな」
「こ、告白してみたら?」
「そのつもりだ。それで今日、俺は勇気を出して、話しかける事にした」
「頑張って!」
「――現在進行形で俺は必死だ」
それはそうだろう。店にはウィルがいるのだから。僕は視線を彷徨わせた。ウィルは奥のテーブル席に麦酒を運んでいる。その隣ではノエリオ君が軽く躓いていた。スカイがその背中の服を引っ張って何とか床への激突を阻止している。
「……ただ、想像以上に、鈍かったらしい。あるいは、脈がゼロで交わされているのか疑っている」
「仕事中だからじゃないの?」
「? 既に勤務時間は終わっているはずだが?」
「へ? だって、麦酒を運んでるよ?」
「――ロイス。お前は一体、誰の話をしているんだ?」
「え? ウィルでしょう?」
「違う」
僕の言葉に、グイとシオンがグラスを傾け、酒を飲み込んだ。それを見て、僕は目を丸くする。シオンは音を立ててグラスを置くと、僕に向き直った。
「好きだロイス。付き合ってくれ」
「え」
……?
僕は耳を疑った。ロイスというのは、紛れもなく僕の名前だ。しかしながら、同名の誰かがいるのかもしれないと、周囲をキョロキョロと見てしまった。だがカウンター席には僕達しかいない。いつの間にかテオさんも厨房へと消えている。
「ぼ、僕?」
「ああ。ずっとお前の事が好きだった。ロイスがこの店の常連客だと耳にしてから、俺はこの店に通うようになったんだ」
「嘘……?」
「事実だ。だが、ギルドでの笑顔とは違って、お前はこの店――プライベートでは俺を視界にすら入れない。それでもたまに目が合うと笑顔になるから、俺は脈があるのではと期待し、そうして通常の視線が合わない時のお前の無表情を見ては、俺とは関わりたくないのかもしれないと落ち込み、その繰り返しだったんだ」
「へ? 本当に? 真面目に?」
「大真面目だ」
僕は呆然としてしまった。頭が上手く働かない。
……りょ、両想い?
漸くそう認識した瞬間、僕は顔から火が出そうになった。カッと頬が熱くなった。最初から赤面していた僕は、更に真っ赤になった自信がある。思わず両手で口を覆った。
か、からかわれているのだろうか? いいや、シオンは真面目な人物だと思う。こんな冗談を言って、人の心を弄ぶような人物では無い(と、僕は信じている)。
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