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第4話
「もう一度言う。ロイス、好きだ。俺と付き合ってくれ。俺の恋人になって欲しい」
「……僕で、良いの?」
「お前が良いんだ」
目眩がしてきた。僕は今度は両手で顔全体を覆った。嬉しくて泣きそうだ。
「……はい」
僕は小さな声で同意した。そして静かに頷いた。
それからチラリとシオンを見ると、虚を突かれたような顔をした後、彼は破顔した。
こうして――この日から、僕とシオンは付き合い始めた。恋人になったのだ。
翌日の夕方。本日の僕は、仕事が休みだ。
「信じられない。夢じゃないよね?」
僕は宿舎の外の喫煙所で、スカイを呼び止めた。するとスカイは煙草を銜えて火をつけた。それから煙草を人差し指と中指の間に挟むと、深々と煙を吐く。そうして、じっくりと僕を見た。
「まー、あのお客さんが、ロイスを好きなのは見てれば分かった」
「え」
「逆に、お前があの人を好きだったって方に驚いたぞ。初耳すぎる。言えよ」
「だ、だって! 絶対に叶わない片想いだと思ってたんだよ!」
「鈍……だってあの人さ、お前の事、チラチラ見すぎだっただろ、これまでも」
「全然気付かなかった……」
するとスカイが呆れたように笑った。それから煙草を深く吸い込むと、宙に向かって煙を吐き出す。僕もまた煙草を銜えた。
「まぁこれからは、うちの店をデート先として使ってくれ」
「デ、デート……」
「恋人同士になったんだろ? じゃ、デートだろ」
スカイはそう言って口角を持ち上げると、瞳を煌めかせた。楽しそうな顔だ。
「俺、あの人とテオさんの話、聞いた事あるんだよ。内容」
「へ? 依頼とか魔物とかの情報交換とかをしてたんじゃないの?」
想像だったが、そう考えるのが易い。するとスカイが吹き出した。
「専らシオンの恋愛相談。いやぁ、うちのテオさんは心が広いな。俺なら二秒で『黙れ』っていうレベルの片想い相談だったからな。いいや、二秒考えてやるだけでも、俺は偉い」
「う、嘘!?」
「なんで俺が嘘をつかなきゃならないんだよ。ま、お幸せに。あーあ。俺にも春が来ないかな」
スカイはそう言うと空を見上げた。現在は冬真っ盛りである。ちらほらと雪が舞い始めた。
「じゃ、俺は仕事に行ってくる。またな」
煙草を消したスカイは、そう言ってニヤリと笑ってから、歩き始めた。僕はそれを見送ってから、通りの方を見た。
さて――本日は、な、なんと、シオンが僕の家に来たいと言ったのだ。それもあって、僕は朝から掃除三昧だった。普段から綺麗にしてはいるが、シオンが来るとなったら特別である。その為、約束の時刻が近づいていた事もあり、僕は外に出たというのもある。そこで出勤前のスカイを捕まえたというわけだ。
「早く来ないかな……」
会いたい。そわそわしながら僕は、ずっと通りの方を見ていた。真っ直ぐ行くと、冒険者ギルドがある。そのまま待っていると、人影が見えた。徐々に大きくなってきて、それがシオンだとすぐに分かった。
「ロイス」
「シオン!」
「待っていてくれたのか? 寒かっただろう?」
「平気だよ」
嬉しくなって僕が笑顔を浮かべると、一度チラリとシオンが振り返った。
「先程、『苔庭のイタチ亭』の店員とすれ違ったぞ。確か、スカイと言ったか?」
「ああ、うん。ここの一階に住んでるんだよ」
「――ほう。いつも親しそうに話しているのを見ていたんだ」
「根が良い奴で、結構気が合うのかも」
「……ふぅん」
シオンが僅かに目を細めた。若干その眼差しが不機嫌そうに見えたから、僕は困惑して首を傾げた。どうしたんだろう? 不安になって、僕はオロオロとしてしまった。
「……部屋に通した事はあるのか?」
「無いけど?」
「では、あちらの家に行った事は?」
「え? 無いけど?」
「ただの友人か?」
「う、うん? そうだけど?」
シオンが何を言いたいのか、僕はよく分からなかった。するとシオンが溜息を零した。
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