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第6話
「雪弥って、もしかして毎日薬を飲んでいるんですか」
ゴボウや人参やキノコなど、野菜がたっぷり入った熱々の味噌煮込みうどんを頂きながら、俺は雪弥の母親に訊いた。
母親もうどんを少しずつ啜りながら、「いいえ」と心許なく笑った。
「昔に比べたら頭痛を起こす頻度も下がったし、薬はたまにしか飲んでないわ」
「でも、ストックが大量にあったから」
「あぁ、あれね、雪弥が買ってきちゃうのよ。あの箱いっぱいに薬が詰まっていないと落ち着かないみたいで。あの日以来、どんどん増えていったの」
『あの日』とは、あいつが亡くなった日の事を指すのだろう。
雪弥はあの箱の中身を埋めることで、自分の精神を保っているのだろうか。
テレビのニュースではずっと大雪に関する警報や注意報が流されていた。転倒や車の事故が相次ぎ、これまでの負傷者は100名近くに及んでいるとの事だった。
無残に大破している車の映像に切り替わる。
50代男性の運転する車が、凍結路面でタイヤがスリップしてしまいガードレールに衝突して亡くなったと聞いていたたまれなくなった。
どうして危険だと分かっているのに、外に出たのだろう。
それはこの運転手だけではない、あいつにも言える事だ。
あいつは歩道橋から体が落ちる瞬間、安易に家を出た事を後悔したのだろうか。いや、きっと刹那過ぎて何も考えれなかっただろう。
食後に暖かい緑茶をもらって飲みながら、俺はどういう理由だったら外に出るのかと考えてみた。
不謹慎ではあるが、例えば両親が危篤だとか、事故にあって病院に運ばれたと聞いたら、外出してはいけない状況であっても必ず駆けつけようとするだろう。
あとは、大事な人が俺に助けを求めてきた場合。例えばだが、雪弥が倒れて動けなくなってしまったと分かったら――
俺は立ち上がり、もう1度箪笥から薬箱を取り出して蓋を開け、錠剤シートが詰まった箱の中身をじっと見つめた。
そうか。もしかしたら、あいつは――
雪弥は部屋でとても穏やかに眠っていた。きっとこのまま朝まで眠ってしまうだろう。
頭を撫でようとして、やめた。
床に敷いた布団に潜り込み、俺は眠りについた。
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