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第4話【義賊との出会い 一】

 初めてステラが義賊の青年と会ったのは数週間前、大粒の雪が降る日だった。  講師が帰った午後。意味も無く窓の外を眺めた時……ステラはいつもと違う光景に目を丸くした。 『――人?』  手では届かないけれど、窓の近くでそびえ立つ木の上。ステラはそこに、大きな影を見つけた。  雪が降りしきる中……顔を厚手の布で覆った青年と思しき影は、口元だけを晒す。そしてその口が、何かを伝えようと動かされた。  その意を汲み取ろうと、ステラは目を凝らす。 『……あ、け……ろ?』  何を――そう思うと同時に、気付く。  ――謎の青年は、この部屋に入りたがっているのだ。  大雪の中、どうして人が木の上にいるのか……そもそもここはスノース国の王族が暮らす敷地内。このような侵入者がいる時点でおかしい。  そうは分かっていても、ステラは窓の鍵を開錠した。  青年が誰だろうと……自分に危害を加える可能性があろうと、どうだっていいのだ。 『ど、う、ぞ』  窓を開けたステラは、大きな声を出すと誰かに気付かれると思い、ゆっくりと口を動かして青年を呼び込む。  ――刹那。 『――ッと!』 『わ……っ』  近いけれどそこそこ距離のあった木から、青年が身軽に飛び込んできた。するりと窓から部屋の中へ侵入し、音も無く着地する。  大きな雪の粒が、青年につられるように窓からステラの部屋へ入った。 『ふぅ……あったけ~』 『……あ、貴方、は?』 『ん?』  雪を手で乱雑に払い落とす青年を見上げて、ステラは声を掛ける。得体の知れない人物を部屋に招いたことに対する恐怖は無く、ステラにあるのは好奇心だけだった。  顔に巻かれていた布を剥ぎ取ると、青年の顔がステラの目に映る。 『初めまして。キレイな王子サマ』  歯を見せて笑う青年の顔に、ステラは見覚えがなかった。  けれど、青年はステラを知っている。  ――それは、絶対にあり得ないことなのだ。 『ど、して……っ?』  好奇心は猫をも殺すと、どこかで聞いた気がする。それでもステラは、好奇心を捨てきれなかった。  頭の中で鳴り響く警鐘に聞こえないフリをし、ステラは青年を見上げ続ける。青年は青年で、ステラを見つめたままだ。 『どうして、私が……王子、だと……っ?』  スノース国の王には、子供が一人。それは娘であるエトワールだけ。  この国には現在、王子が存在しない。それが、国民の知る内情だ。  ――だからステラを『王子』と知る者は、王室関係者以外にいる筈がない。  ――けれど、この青年は部外者だ。 『さて、何ででしょうねぇ?』  ステラの好奇心を満たすことなく、青年は笑みを浮かべ続けた。  それが、ステラと青年――義賊の、出会いだ。

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