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第6話【精霊との出会い 一】
王女であるエトワールとステラは、双子の兄妹だ。双子なだけあり、二人が同じ服を着て同じように佇み同じような笑みを浮かべると、見分けられる人はいなかった。
順当にいけば、ステラはスノース国の王になれる。女であるエトワールは、他国の王族と婚姻関係を結び幸せに暮らす。そういう筋書きの筈だった。
――それが変わってしまったのは、二人がまだ幼い頃。
よく晴れたある日……敷地内の庭を散歩していたステラは【それ】に出会った。
『あなたは、だれですか?』
薄水色の髪をくるぶしまで伸ばし、宙に舞う男か女か分からない……人なのかも定かではない存在。真っ白な布に身を包むその四肢は、布と同様に白く美しかった。
まるで妖精のような存在が、血のように赤い瞳でステラを見下ろす。
『おや、少年。ボクが見えるのかい?』
『はい。みえます』
『そうかそうか。それは面白い』
唇が弧を描き、目は愉快そうに細められる。きっと喜んでいるんだろうと思った幼いステラは、笑みを返す。
妖精は宙でグルリと一回転した後、自身を見上げる小さなステラへ近付いた。
『ボクは精霊。そしてキミは選ばれし者だ』
『わたしはステラです』
『おっと。それは失礼した。ステラ、ステラか……いい名だね』
自身を『精霊』と名乗った不思議な存在に至近距離で見つめられても、ステラは動じない。笑みを浮かべたまま、見つめ合っている。
精霊はそれすらも楽しいのか、弧を描いた唇を動かす。
『それじゃあステラ。ボクとキミはこれから友達だ』
『ともだち……?』
『そう、友達さ。友愛の証にプレゼントをしたいのだけれど、受け取ってくれるかな?』
精霊の申し出に、ステラは視線を彷徨わせた。
『おとうさまとおかあさまに、しかられるかも……』
『知らない人から物は貰っちゃいけません、ってやつかい?』
『はい……っ』
子供が使う常套句だ。しっかりと言いつけを守るステラを見て、精霊は気分を害した様子もなく笑みを浮かべ続ける。
『大丈夫さ。ボクとキミは友達。知らない人じゃないだろう?』
『……そう、でしょうか?』
『なら、別の言い方をしよう。……ボクは【人】じゃないから、その条件には当てはまらない。これならどうだい?』
屁理屈だと、大人達なら言うだろう。
しかし同年代で仲のいい人が妹のエトワールしかいないステラは、精霊の言葉を魅力的に感じてしまった。
『そうですね、それならしかられません』
『聡いね。流石ボクの友達だ』
『ありがとうございます』
素直な褒め言葉として受け取ったステラの頬を両手で包み込み、精霊が額を重ねる。ステラは冷たさから、目を閉じた。
――そう。精霊の肌は、氷のように冷たかったのだ。
『キミはとても幸運だ。ボクと出会い、ボクを見付けたキミの未来に……幸あらんことを』
そう囁く精霊と重なった額を、ステラは突然『あつい』と感じる。
つい先程まで冷たかった箇所が熱くなったことに驚いて目を開くと、ステラは呆然とした。
『いない……?』
まるで幻だったかのように、精霊の姿は消え去っていたのだ。
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