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第7話【現在 四】

 目を覚ましたステラは、暗い部屋を瞳だけで見回す。 「――ゆ、め……」  そこには雪も無く、日の光も緑も温かさも無い。  自分が夢を見ていたのだと気付いたステラは、上体を起こす。部屋が暗いのは、外で雪が降っているからだろう。  乱れた夜着を正し、ステラはベッドから下りる。カーテンを開けると、外ではやはり雪が降っていた。 「……精霊様」  ガラスに映る自分の瞳を見つめて、ステラは一人呟く。その声は誰かに拾われることなく、虚空へ消えていった。  夢の続きを、ステラは鮮明に描ける。あの夢は、ステラが幼い頃に体験したことだからだ。  思い出してから、ステラはその場にしゃがみ込む。膝に額を押し付け、出もしない涙を出した気になって、誰に伝えるでもなく呟いた。 「どうして……『友達』だなんて、嘯いたのですか……っ」  あの日以来、ステラはただの一度も精霊と出会えていない。そもそも精霊を探そうと――あの庭を、歩けていないのだ。  目の前から精霊が消えたその日……ステラの運命は大きく変わった。  よく晴れた青空を見上げ、日の光があまりにも心地良くて目を細めた時……ステラを探していた従者の顔が目に飛び込んだ。  ――それこそ、精霊からのプレゼントに気付いた瞬間だった。 「……一生、雪が降り続けたらいいですのに……っ」  ステラは精霊を憎まない。  ――ステラが憎いのは、日の光だけだ。 「晴れの日なんて、こなくていい……っ」  痩せ細った自身の体を掻き抱き、ステラは呟く。  雪を降らせる曇天の空を見上げても、ステラの心は晴れなかった。  その日も講師が帰った後、ステラは窓の外を眺めた。今朝と同様まだ雪は降り込めていて、従者達の足跡は新雪で覆い隠されている。  下に向けていた視線を、上へ向けた。視線の先にある大きな木。すると想像通り、そこには義賊の青年が座っている。  何の迷いもなく窓を開き、ステラは義賊を呼び込んだ。そして義賊も迷いなく、ステラの自室へ飛び込む。 「よ、ッと!」  華麗に着地した義賊を見て、ステラは微笑んだ。 「こんにちは」 「よっ! 今日もアンタはキレイだな。見惚れるぜ」 「ありがとうございます。今日も義賊様はお上手ですね」  窓を閉めたステラが振り返ると、義賊は雪を払い落としていた。敷かれた絨毯がいくら濡れようと、ステラは全く気にしない。当然、義賊も気にはしなかった。 「今日は一段と冷えた……参考までに訊くが、アンタは体温が高い方か?」 「どうでしょう? 誰かと比べたことがありませんので……」 「じゃあ、いっちょ比べてみないかい?」  紅茶を用意し始めるステラには、義賊の言っている言葉の意味が分からない。怪訝そうな表情を浮かべて、ステラは義賊を振り返った。

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