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第9話【義賊との出会い 二】
深紅の瞳には、憶えがあった。あの日出会った、精霊の瞳だ。
雪が降り込める日、義賊と出会ったステラは……夢かと思った。
赤色と一口に言っても、様々な色がある。けれど精霊と同じ血のように赤い瞳を、ステラが見間違える筈がない。
義賊の瞳は、精霊と全く同じ色だった。
だからこそステラは、義賊に訊ねてしまったのだ。
『貴方は、精霊様をご存知ですか?』
――それは一種の、自爆行為だった。
問われた義賊は、素直に頷く。
『あぁ、存じてるさ。……そう訊いてきたってことは、アンタもか?』
『……はい』
素直な答えを貰ったステラは、同様に素直な答えを返す。
精霊という存在は、誰でも簡単に会えるわけじゃない。現に、精霊と出会ったあの日から、ステラはただの一度も精霊と再会していなかった。
他の誰に訊いても『そんなものは夢物語だ』と言われ、信じてもらえない。そのくらい、精霊とは稀有な存在なのだ。
『じゃあ、アンタは雪が降っているとただの人間ってワケだ?』
血のように赤い瞳を細めて、義賊が品定めするようにステラを見下ろす。初対面の相手にジロジロと見られて、ステラは落ち着かない様子で視線を彷徨わせた。
すると不意に、武骨な指で顎を持ち上げられる。
『な、にを――』
『あぁ、ホントだ。瞳が赤くない』
ジッと瞳を見つめながら、義賊が呟く。
『キレイな色だ。どっかの国の文献で見た【サクラ】って花に似てるな』
深紅の瞳が、愛おし気に細められる。そんな風に見つめられた試しがないステラは、やはり視線を彷徨わせた。
『お、落ち着きません……っ』
『何でだい。王族なんだから、見られることには慣れてるだろう?』
『私は、爪弾きされていますから……』
『へぇ?』
顎から手が離れ、ステラは内心でほっと一息吐く。
俯いたステラの後頭部を、義賊は怪訝そうに眺めた。
『アンタが精霊から貰ったモンは、そんなロクでもねぇモンだったのか?』
『そうでは、ありません』
『興味深いから、良ければ聴かせてほしいんだが……構わないかい?』
依然として俯いたまま、ステラは身に纏う上品な衣服をギュッと握り締める。
そして一度だけ、小さく頷いた。
『――私は、知ってはいけないことを知ってしまい……それを、口にしてしまったのです』
それはあの晴れた日、精霊の姿を見失った後のこと。自分を探す従者――現、宰相を見つめた時だ。
目に飛び込んできたのは、確かに宰相の顔だった。
――けれど、それだけではない。
『このままでは、この国が乗っ取られてしまう……っ』
悲痛な叫びを聴いたのは、義賊が初めてだった。
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