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第10話【現在 六】
紅茶を飲みながら、ステラと義賊は他愛も無い話を続ける。それは初めて義賊と出会ってから、雪が降ると毎日繰り広げられる光景だった。雪の日限定の日課だ。
食事を運ぶ従者と自分に知識を与えてくれる講師はいるけれど、どちらも雑談はしてくれない。こんな風に、穏やかな時間を過ごしてくれる相手ではないのだ。
だからステラは、この時間が好きだった。
そして……終わりはいつも、どこか悲しく思う。
「さて……明日は晴れそうだぜ、王子サマ」
「……っ」
椅子から立ち上がった義賊の呟きに、ステラは目に見えて狼狽する。
それは決して、義賊に会えないからではない。そんなこと、義賊自身も分かっている。
「目を閉じていたらいい」
「それはできません……従者と講師の方に、迷惑が……っ」
「一日くらいいいだろう。『具合が優れなくて~』とか言っておけば、きっと許されるさ」
「もしも、明後日も晴れたら……?」
情けなく俯いたステラの頭に、義賊が手を載せた。
「天命だと笑って、いっそ目を開けばいい。そして、アイツを探してみたらいいさ」
その言葉に、ステラは驚く。そして、小さな笑みを零した。
「それは……随分と無責任なことを仰いますね」
「そうかい? 証拠は多いに越したことねぇだろ?」
頭に載せていた手が、ゆっくりと下方へ落ちる。そのまま銀色の髪を一束掬われると、ステラは顔を上げた。
「オレは味方だ。必ずこの国を助ける。……まぁ? その分、報酬もしっかり貰うがな?」
掬った髪に口付けを落とすと、義賊が笑う。つられて、ステラも笑った。
「道中、お気を付けて」
「あぁ。……離れていても、アンタを想うよ」
「ありがとうございます」
「目を逸らすな、目を」
髪から手が離れ、その手が窓へ伸ばされる。明日が晴れだと言う根拠は分からないけれど、義賊の天気予測は外れたことがない。だから、明日はきっと会えないだろう。
――義賊がやって来るのは、雪が降る日だけだから。
窓から義賊が出て行くと同時に、部屋には小さなノック音が響く。
『コンコンッ』
窓を閉め、ステラは扉の方を振り返った。
部屋の中に入ってきた使用人が食事を置く様子を眺めて、ステラは笑みを浮かべる。
「すみません。明日は体調が優れない予定ですので、食事は不要です」
「はい……はい? す、優れない予定……です、か」
「えぇ」
「か、かしこまりました……?」
戸惑う使用人が部屋から出ると、ステラは窓の外を眺めた。
もしも、明日だけでなく明後日も晴れたら……その時は。
「――部屋を出て、彼に会いましょう」
そう呟き、ステラはカーテンを閉めた。
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