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第13話【精霊との出会い 二】

 精霊からプレゼントを貰ったら、瞳が赤くなる。そう気付いたのは、ステラがあの晴れた日に自分の瞳を見た時だ。  精霊を見失った後、ステラは自身を探しに来た宰相の顔を見上げた。日の光を背負った宰相の顔がいつもと変わらず穏やかだったのを、ステラは今でも憶えている。  ――だからこそ、ステラはあの日見たビジョンを忘れられない。 『――このくにを、のっとるのですか……?』  血のように赤くなった瞳を宰相に向けて、青白い顔でステラは呟く。言葉の意味が分からない宰相は、怪訝そうな顔でステラを見下ろした。 『ステラ王子? 何を仰って――』 『ちちうえがしんだあと、あなたは……ははうえに――』 『ス、ステラ王子……ッ!』  ステラが生まれて初めて怒鳴られたのは、その日だ。相手は宰相で、その時にどれだけ怖い顔をしていたのか……それすらもステラは、ハッキリと憶えている。 『な、何を仰っているのか……私がこの国を、乗っ取る? お、おかしなことを言うのは止めていただきたい……ッ』 『いいえ、いいえ。しかと、みえました……! あなたは、きずついたははうえにとりいって――』 『ふざけるなッ!』  人に怒鳴られたことのないステラは、当然怯えた。けれどそれは、怒鳴られただけで怯えていたわけではない。  ――脳内にとめどなく流れ込んでくるビジョンは、幼いステラが眺めるにはあまりにも残酷な光景だったのだ。 『何を言っている……ッ、どこから、誰からッ! 何を、聞いたって言うんだ……ッ!』  止めたくても溢れてくるビジョンを、ステラは嘘だと思いたかった。  ――しかし、嘘ならばこんなに動揺されるわけがない。  得たくもない確信を得てしまったステラは、一歩後退する。 『う、うそ……です、よね? あなたが……あんなに、まじめなあなたが……こ、こんなこと……っ』  狼狽したステラは、自身を見下ろす宰相に距離を詰められていく。 『ステラ様、その瞳……いかがなさいましたか?』 『ひと、み……?』  当時のステラは、言われている意味が分からなかった。それは当然だろう。何故ならステラはまだ――精霊から【プレゼント】を貰うと【瞳が赤くなる】と知らなかったのだから。  ――だからこそ、逆手に取られた。 『あぁ……あぁ、いけません。いけませんねぇ……? これは何かの病気かもしれません。そんな方を、王様と王妃様の近くに置いておくわけにはまいりませんよ……ねぇ、そう思いませんか?』  ジリジリと、距離を詰められる。  ステラは少しずつ後退するが、子供と大人の歩幅だ。逃げられる筈がない。 『だれか――』 『――逃がしませんよッ!』  背を向けて走り出そうとしたステラの腕を乱暴に掴み、宰相が引き寄せる。  薄桃色の瞳が赤くなった原因を知らない幼いステラは何の釈明もできず、数時間後……別館へと幽閉された。

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