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第14話【現在 九】

 原因不明の深紅色。それは毎日ではなく、不定期に。  その頃はまだ何の発言力も持っていなかったステラは、宰相の巧みな話術によっていとも簡単に別館へと幽閉された。詳細は知らないが……きっと、何かの病気だとでっち上げられたのだろう。  別館から抜け出し、父親か母親に会おうとも思った。ステラが見た【おぞましいビジョン】を伝える為に。  ――けれど別館から出る度に、宰相がステラを捕まえたのだ。  初めは躍起になって何度も脱走を試みたが……幾度も起こる失敗に胸を痛め、希望を絶望で塗り替えられ……最終的に諦めた。  そして、今の幽閉生活へと至るのだ。  スノース国で、二日間も晴れが続くのは極めて珍しい。そんな感慨を抱けるくらいには回復しているステラが雪の日恒例の勉学を終え、窓の外を眺める。  三日目は、雪。つまり――そう考えた刹那、見慣れた人影を窓の外で見つけた。  ステラは急いで窓へ駆け寄り、鍵を開錠する。  窓が開いた瞬間、見慣れた人影はステラの部屋へ身軽に侵入した。 「――っと! よ、王子サマ。久し振りだな」 「義賊様……っ」  嬉しそうに笑う義賊が雪を払う仕草を眺めながら、ステラは義賊へ詰め寄る。  普段はこちらから接近しない限り決して距離を詰めないステラが、急に距離を縮めてきたのだ。当然、義賊は目を丸くした。 「何だァ? いやに積極的だな。勿論、オレはいつどこでだって大歓迎さ」 「その言葉に偽りはありませんね?」 「おう、当然――と言いてぇが、そういうことを訊いてるワケじゃなさそうだ」  いつもと様子が違うステラに気付き、義賊は後ろ手にカーテンを閉める。 「昨日……アイツに会ったのか?」  問い掛けに、ステラは黙って頷く。  昨日、ステラはアイツ――宰相に会った。その時に、深紅の瞳でしっかりと宰相を見つめたのだ。  ――それがどういう意味か、義賊は知っている。 「――【晴れの日にだけ、瞳に映った相手の未来が見える】なんて……末恐ろしい能力だな?」  小さく震えるステラの前で義賊は冗談めかしてそうぼやく。  ――そう。それこそ、ステラが精霊から貰った【プレゼント】だ。  血に似た深紅色の瞳……それを持つものは、精霊から何かしらの【異能力】を貰ったという証拠。そして瞳が深紅色の間は……精霊から貰った異能力を発動しているということだ。 「義賊様……っ、何も、何も……何も、変わっておりませんでした……っ」  子供の頃、精霊に会ったステラは異能力を与えられた。そして何も知らず、宰相の未来を見てしまったのだ。  ――そこに映ったビジョンは決して、ステラにとって許容できるものではなかった。  目の前に立つ背の高い義賊を眺めて、ステラは静かに叫ぶ。 「――あの男はまだ、母上を……この国を、乗っ取ろうとしている……っ」  痛切な悲鳴に似た声を、義賊は真剣な眼差しで受け止めた。

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