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第18話【現在 十二】
首元が開いたシンプルで真っ白な服は、まるでスカートのようだ。そんな服を着ながら冷酷な手錠と足枷を付けられたステラは、目を閉じていた。
この独房に閉じ込められ、何日経ったのか……ステラは知らない。食事を運ばれるのがあまりにも不定期なのと、日の光が入ってこないせいで外を見ることができないからだ。
義賊は無事に逃げおおせたのか……それだけが、ステラにとって気掛かりだった。
目を閉じていたステラだったが、不意に聞こえた足音で目を開く。
「……こんにちは、ステラ様」
「宰相……っ」
やって来たのは、ステラをこの独房に閉じ込めた張本人……宰相だ。
いつも穏やかな笑みを浮かべているとは思えない程、宰相は酷く忌々しい笑みを浮かべている。
「おや、怖い。罪人を捕らえたというのに、何故自分は睨まれているのでしょうか」
「罪人……? 私を誰と心得ておいでですか……っ!」
「誰、ですって?」
至極当然な問いに、宰相は笑って答えた。
「――今は亡き、ステラ王子……でしょう?」
「…………な、に……っ?」
宰相の答えに、ステラは驚愕の表情を浮かべる。
何を言いふらしたのか、詳細を知らないステラではあったけれど一つだけ知っているのは……国民は誰もステラを知らないということ。
しかし、死んだわけではない。初めからいなかったことにされたのだ。
「ステラ様は死にました。私が、そう報告したのです」
「いったい、誰に――」
「王族の方々にですよ」
檻の向こう側に立つ宰相は、鎖で繋がれた痛々しい姿のステラを見て不敵な笑みを浮かべている。
「貴方を捕らえたあの日……貴方は死にましたと、そう告げました」
「いったい、何の為にっ!」
「その方が円滑に物事を進められるのですよ」
言葉の意味が分からず、ステラは眉間にシワを寄せた。
その姿すら愉快なのか……宰相は笑みを崩さない。
「別館にやって来た盗賊がステラ様を殺し、証拠隠滅の為暖炉の火にくべていました。異変に気付いた私がステラ様の自室に入り、盗賊を見事確保……そして、ここに収容されているのは盗賊だと。そう報告したのです」
「そんな馬鹿げた法螺話、いったい誰が信じるというのです!」
「それだけの信頼を、私は得ています」
病で倒れる王の代わりに政をこなしているのは、宰相だ。それをさせてもいいと思われるくらいの信頼を、宰相は得ている。
そんなこと、薄々察していた。
――だからこそ、国を乗っ取る未来が見えてしまったのだから。
「何故か貴方は、私がこの国を乗っ取ろうとしていることを知っている。私からすると、貴方は邪魔なんですよ……ステラ王子」
精霊の存在はもとより、与えられた能力のことも知らない宰相からすると……ステラは異様で異質で得体の知れない妨害者だ。
それを排除しようとするのは、当然だろう。
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