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第19話【現在 十三】

 笑う宰相を睨み付けたまま、それでもステラは気丈に振る舞う。 「させません……! 貴方なんかに、このスノース国は渡さないっ!」 「何度も王族の屋敷がある敷地内に盗賊を出入りさせていたくせに、よく吠えますね」 「彼は屋敷から何も盗んでおりませんっ!」 「はっ、どうだか」  睨み付け、怒鳴ってみたところで宰相は何も怖くない。檻の中で鎖に繋がれているステラを見て、怯える筈がないのだ。  それでもステラは、決して引かなかった。 「必ず貴方の悪事を露呈させてみせます……!」 「できるといいですねぇ?」  檻に近付き、鉄格子に手をかけた宰相は……囁くように呟く。 「――次にくる晴れの日に……貴方は処刑されますけど」  何度か見聞きしたことがある【血の気が引く】という現象を、ステラは今初めて実感する。  口の中が渇き、目の前が暗くなるような……一言で言い表すのなら【絶望】。  言葉の意味を一度では理解できず、ステラは震える唇を懸命に動かす。 「い、ま……なん、と……?」 「ですから、貴方は処刑されるのですよ」 「何故――」  訊ねかけて、ステラは理解した。  ここに収容されているのは【ステラ】ではなく【ステラを殺した義賊】……宰相は王家にそう報告している。そして王家の者は皆、宰相を信じた。  ということは、ここにいるのは王族を殺した大罪人だ。  ――死罪は、順当な裁きだろう。 「お、のれ……っ!」  怒りと、絶望感と、目の前にいる憎き宰相へ何もできない無力さ……その全てを一身に宿したステラは、ただひたすらに宰相を睨み続ける。  けれど宰相は当然、臆さない。 「ハハハッ! 王族は馬鹿ばっかりですよ! 貴方の瞳が赤くなった時、私がでっち上げた嘘の病状を本気で信じた! 療養だと言えば王子を簡単に監禁できてしまう国家なんて、どうかしている! そうは思いませんかッ!」 「貴方はそれでもスノース国王家の宰相ですかっ!」 「王子を処刑する馬鹿共を導いてやると買って出ているのですよ? むしろ感謝されたいくらいですねぇッ!」  何を言ったところで、宰相からしたら負け犬の遠吠えに聞こえるのだろう。  それでもステラは引きたくなかった。 「必ず、貴方を裁いてみせます……!」 「貴方の頼み綱はあの盗賊でしょう?」  鉄格子から手を放し、宰相はもう一度笑ってみせる。 「来ませんよ、絶対に。せっかく逃げおおせたのですから、そのまま別の国にでも逃亡して、盗みを働くでしょう? ……貴方を助けたって、何の得もないのですから」 「そ、れは……っ」  背を向けた宰相に反論をしようと、ステラは言葉を探した。  けれど、考え直して気付く。  ――リスクを冒してまでステラを助けたって、義賊には何のメリットもないのだと。

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