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第22話【現在 十六】
瞳に映った国民は、不安そうな顔で処刑台を眺めていた。見ず知らずの罪人とは言え、目の前で人が殺されるのだ。当然だろう。
けれど、ステラに流れ込んできた未来は違った。一瞬だけ見えたそのビジョンに、ステラは目を疑う。
――そしてそれは、すぐに現実となる。
「断罪いたします……ッ!」
首を断つ為に、斧を振りかぶる気配がした。流れ込んできた未来のビジョンでも、宰相が斧を振りかぶる動きは見えたから、気のせいではないだろう。
なのにステラは、動じなかった。
――瞳に映る綺麗な雪の結晶に、目を奪われたから。
「――顔がキレイだからって、胴と離していい理由にはならんさ」
間の抜けた声が、頭上から聞こえる。
ステラと宰相以外……処刑台を眺める国民達の耳にも、その声はしっかりと聞こえていた。
そして国民達は、皆一斉に驚愕する。
――ステラの体が、宙に浮いたからだ。
「……っ!」
突然の浮遊感に息を呑むと同時に、頬には冷たい雪を……体には温もりを、ステラは感じた。
目を丸くし、温もりを感じた方に目を向ける。
そこでステラは、深紅の瞳を持つ青年と目を合わせた。
「久し振りだな、オレの王子サマ」
突然降り始めた雪には、驚かない。この国ではよくあることだ。今の自分が薄桃色の瞳をしていることにも、ステラは当然動じない。
けれどただ一つ……今自分を抱き上げている青年だけは例外だった。
「ど、して……っ」
「おや? 空を飛んだのは初めてかい? 言ったろ? オレには魔道に長けた仲間が――」
「そうではなくっ!」
拘束された状態で、ステラは懸命に身じろいだ。
魔道に長けた仲間……その言葉を信じていたのかと問われると、ステラは答えられない。魔術師と呼ばれる存在は疾うの昔に絶滅したと、何かの文献で読んだからだ。
けれど今は、そこに対して何かを言っている場合ではない。
「――どうして貴方が、ここにいるのですか……っ!」
ステラのことをしっかりと抱き留めながら、青年はステラ諸共宙を浮いている。この状況に驚くよりも先に、ステラは訊ねたかった。
深紅の瞳を細めて、青年は笑う。
「言ったろ? オレは、アンタを助けるって」
雪が降ったことで、ステラは一瞬しか未来を見ることができなかった。そんな中ステラが見た未来は、あまりにも眩しかったのだ。
宙に浮き、ステラを抱き締めながらそう笑ったのは……ステラが選んだたった一人の騎士――義賊だった。
「報酬は、オレの言い値だけどな」
そう言って義賊が笑うのは、ステラが見た未来と同じ光景だ。
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