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第23話【現在 十七】
突然処刑台に滑り込み、ステラの体を抱き上げて宙に浮いた義賊を見て……驚かない者などここにはいなかった。
それは、宰相も例外ではない。
「何者だッ!」
咆哮に似た宰相の問い掛けに、義賊は笑って答える。
「一度見た男の顔を忘れたって? 宰相サン……そんなんで渉外できるのかい?」
「貴様は、と――くッ!」
慌てて口を閉ざし悔しそうに呻いた宰相を見て、ステラは一瞬だけその行動を訝しんだ。
しかし、宰相がどうして『盗賊』と言わなかったのか、ステラは義賊の言葉で気付く。
「どうした? 言えよ。『別館に私手ずから幽閉しました王子ステラサマの部屋に忍び込んだ盗賊め』ってな!」
「「「ッ!」」」
息を呑んだのは、宰相だけではなかった。宙に浮いたまま、ステラは下にいる国民達を見る。
「別館に、王子?」
「王様の子供は、エトワール様だけでは……?」
「でも確かに噂で、エトワール様は双子だって……っ」
途端に騒ぎ始めた国民達に向かって、処刑台に立つ宰相は声を張り上げた。
「こんな得体の知れない男の戯言に耳を傾けてはなりませんッ! 国民の皆様を混乱させる為の虚言ですッ!」
「ハハハッ! そうだな、確かにコレじゃあただの虚言だな!」
そう言うや否や、義賊はおもむろにステラの頭へ手を伸ばす。
その動きの意味を、宰相は瞬時に悟る。……が、宙に浮いた義賊相手に何ができるだろう。
「オレと宰相サン、どっちがウソを吐いてるか……王族想いの国民に決めてもらおうぜッ!」
高らかな宣言と同時に、ステラの視界が広がった。
国民達が、目を凝らして宙を見上げる。
――そして。
「「「――ッ!」」」
先程と同じくらい――それ以上のざわめきが、ステラの足元で起こった。
降り積もった雪の上目掛けて、白い布が揺らめきながら落下していく。
――王女エトワールと瓜二つの顔で、ステラは自分の頭から取り外された布を、しっかりと見送る。
「エト、ワール……様?」
「まさか……! エトワール様は今、隣国王族との会合に出向かれている筈!」
「だったら、あれは……?」
足元でざわつく国民達を眺めて、ステラも同様に戸惑った。エトワールが会合に向かっていると知らなかったからだ。
そんな中……義賊だけは可笑しそうに口角を上げた。
「王族がいない隙に邪魔な王子サマを消したかったんだろうが、その目論見が反って仇になったなぁ?」
笑う義賊と、戸惑う国民にステラ……そしてただ一人、宰相だけが悔しそうに唇を噛みしている。
この状況で義賊の言葉に聴く耳を持たない者は、誰一人としていなかった。
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