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第24話【現在 十八】
安全地帯で宰相と国民を見下ろしながら、義賊はわざとらしく肩を竦めて呟いた。
「あぁ……大事なモンはひけらかさない主義なんだけどなぁ」
その呟きが聞こえたのは、ステラたった一人。何故なら国民達は、隣に立つ者同士でザワザワとどよめいている。宙に浮く義賊の呟きが聞こえる程、静かな状況じゃない。
ただ一人、義賊の呟きが聞こえていたステラは眉根を寄せる。
「今はそういった戯れに興じるつもりはありません……っ」
「アンタはホント、失礼な奴だな? オレは隠し事もはぐらかしもするが、ウソは吐かねぇのによ?」
「義賊様……っ」
「ハイハイ」
渋々といった表情を浮かべた後、義賊はおもむろにステラを強く抱き寄せた。
「オレと宰相サン……どっちがウソを吐いてるか分かっただろッ!」
大きな声に、国民達は一瞬だけ閉口する。
――その隙を、宰相は見逃さなかった。
「おのれッ! エトワール様の真似事をするとは……なんて卑劣な盗賊だッ!」
糾弾に似た咆哮を、義賊は笑って一蹴する。
「ハハッ! 随分と苦し紛れな言い分だなぁ宰相サンよぉ?」
「黙りなさいッ! 王様が病に伏している今、この国の平穏が保たれているのは誰のおかげと心得ているのですかッ!」
「勿論宰相サン、アンタのおかげさ」
「ならばその減らず口を今すぐ――」
吠える宰相を尻目に、義賊はステラの髪を撫でた。
「――よくガマンしたな」
その囁きと共に、義賊はステラの耳も撫でる。突然耳元で甘く囁かれ、ステラの鼓動は跳ね上がったが……すぐに落ち着いた。
――義賊が、ステラの耳に付けていた小さな【何か】を取り外したからだ。
ステラが息を吐く間もなく、義賊はおもむろに、その【何か】を天に掲げた。
――瞬間。
『何故か貴方は、私がこの国を乗っ取ろうとしていることを知っている。私からすると、貴方は邪魔なんですよ……ステラ王子』
――独房で言い放たれた宰相の言葉が、天から降り注いだ。
それに驚いたのは、ステラだけではない。国民はもとより……その言葉を言った張本人である宰相さえも、目を見開いたのだ。
『ハハハッ! 王族は馬鹿ばっかりですよ! 貴方の瞳が赤くなった時、私がでっち上げた嘘の病状を本気で信じた! 療養だと言えば王子を簡単に監禁できてしまう国家なんて、どうかしている! そうは思いませんかッ!』
仕組みは分からない。義賊が天に掲げているのは、どう見たって細いピンのようなものだ。
なのにそこから、まるで盗聴していたかのようにあの日の言葉が溢れてきている。
『王子を処刑する馬鹿共を導いてやると買って出ているのですよ? むしろ感謝されたいくらいですねぇ!』
決定的な言葉が空から降り注ぎ、辺りは静寂に包まれた。
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