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第25話【現在 十九】

 衝撃的な言葉が降り注いだ静寂の後、一人の国民が口を開いた。 「今のって……宰相様のお声、ですよね?」  独り言と変わらない声量。それなのに、静まり返った広場に居る誰もがその言葉を聞いてしまった。  その国民はまたもや一人で呟く。 「アレは、魔道に長けた者のみが作れる盗聴器です。実物は初めて見ましたが、文献でなら見たことがあります……っ」  国民の声に、隣で立つ青年が訊ねた。 「つ、まり……今の声は……っ?」 「はい。間違いなく、宰相様のお声です。宙に浮いている彼を見たら分かりますでしょう? 彼は間違いなく魔道に――」 「馬鹿なッ!」  声を張り上げたのは、宰相だ。 「そんな、そんな物……ッ! 誰が信じると言うのですッ! 私の声を真似て録音したのでしょうッ! 魔道だか何だか知りませんが、王族の品位を落とす真似は止めていただきたいッ!」  額に汗を浮かべ、罪人を断罪する為の斧を握る腕はブルブルと震えている。眉間には深くシワが刻まれていて、いつもの落ち着きは面影すらない。  ――その咆哮は、まるで悲鳴だ。  そんな状態でも、国民はまだ宰相をどこかで信じていた。病に倒れた王様に代わって政をこなし、国民を不安にさせまいと邁進してきた姿を知っているからだ。  それでも、目の前で起こっていることはあまりにも無慈悲だった。 「『王族の品位を落とす』だァ? エトワール王女の兄であるステラ王子に、こぉんな薄汚ぇ服着せといて、何言ってんだよ」 「どうせその男も魔道か何かで作った偽物だッ!」 「へ~? ふ~ん?」  平静さを失っている宰相とは対照的に、義賊の青年はどこまでも楽しそうだ。次に宰相が何と言うのか、楽しみにしているようにも見える。 「なら、この罪人がステラ王子だって言う証人がいたら……信じられるか?」 「そんな者――」 「なぁッ! 別館の使用人サンと、ステラ王子の教育係サンッ!」  そう叫んだ義賊が、ある一点に視線を向けた。  義賊が見やった方向……処刑台へ集まった人だかりの中央に、国民達は目を向けた。 「あ、の……二人は……っ」  どうして気付かなかったのかと、ステラは驚く。何故ならそこに立っていたのは……別館に幽閉されていたステラが唯一交流を持っていた人達だったからだ。  ――人だかりの中央には……大勢に見つめられて落ち着きのない女の使用人と、幸の薄そうな講師が立っていた。

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